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相手を見てプレーすること 〜J2リーグ第28節 ヴァンフォーレ甲府 vs レノファ山口FC 振り返り 簡易版〜

2019年Jリーグ第28節 ヴァンフォーレ甲府vsレノファ山口FCの試合は,0-1でレノファ山口FCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

申し訳ありませんが、今回は簡易版とさせてください。

この試合のプレビューはこちらです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


山口がボールをどう握り倒しそうとしたのか

この試合のボールポゼッション率は甲府が42%,山口が58%でした。この数字からもわかるように山口がボールを握る時間が多かった試合でした。ボールを握ることに関しては山口の狙いだったようです。

--対甲府ということで選手に求めたことは?
こういうコンディション(気温30.1℃)なので、選手に求めたことは、握り倒そうと。ボールを保持してピッチを広く使って相手の5枚を前に出させないようにした。中盤で空いているスペースを……テクニックがある選手をたくさん起用したので、そこでまず主導権を握ろうと、前半非常に良い形でボールをつなげた。後半開始早々に良い形で点が取れたのでもう1点取りたかったが、最後の最後、体を張って1-0で勝つことができてうれしく思います。

Jリーグ公式サイトに載っている霜田監督のコメントです。ボールを握り倒すという言葉が印象的です。

さて,この試合に山口が勝利を収められたのはただボールを握っていたわけではないことが要因だと思います。甲府に対して効果的な握り方ができたことが良かったと思います。

ここからはその効果的な握り方を紐解いていきましょう。

甲府は,この試合も入りは3-4-2-1のシステムでした。守備の時は5-4-1でブロックを組んでプレスをかけながらサイドに追い込んでボールを奪い,強力な個を持つ前線の選手たちでカウンターという武器があります。この武器を生かすために甲府は,できるだけ前線のウタカやドゥドゥに守備をさせないように守りたいはずです。もちろん,ウタカやドゥドゥも局面ではスプリントもしますし,戻って守備をするのですが,連続してスプリントをかけたりといった多大な貢献は守備では求められていません。

ですから,甲府としてはプレスがかかりづらく使われたくない1トップのウタカの周りのスペースに中盤の選手が出てきて規制をかけることがあります。この試合で言えば,小椋と佐藤和弘です。彼らが前に出てきて真ん中を相手に使わせないようにするのです。

山口は甲府の中盤の選手のこの守り方を狙っていたと思います。真ん中でボールを保持し相手の中盤の選手が出てくるのを待ち,出てきたらその裏に縦パスを通しテンポアップするという狙いです。

菊池が出場停止だったこともありますが,この狙いを遂行するためにシステムも4バックにし山下と佐々木をWGポジションからスタートさせました。相手のWBの選手を下げさせ,自分たちのSBに時間とスペースを与えるためです。そして,山口のSBがフリーになれば相手のシャドーのドゥドゥと曽根田がそこをケアしようとします。すると,CBの楠本と前貴之がフリーになりやすくなります。

こういったメカニズムでボールを保持することを試みたのだと思いますが,甲府を困らせたのは,これに加えて山口の選手が相手を見て運ぶプレーを行なっていたことにあると思います。相手を見て運ぶプレーによってただ後ろでボールを保持しているだけになることを防ぎました。

7分から9分にかけての山口のポゼッションではSBの川井や石田がボールを運んで相手のラインを押し下げたり,相手のボランチの手前でボールを受けた佐藤健太郎や高が縦パスを狙いながらプレーをキャンセルして相手の守備の足を止めたり,楠本や三幸がボールを持ち運んで相手を引き出したり,途中でボールを奪われかけられるも良いプレーが連続的に見られていました。

相手を見ながらボールを持つことで相手の選手の足を止め,フリーの選手はボールを運び,相手を引き出したらその裏にパスを入れてテンポアップという運び方ができていたと思います。これが効果的でした。15分の楠本から宮代への背後へのパスなんかもこの運び方が効いていたことによるものでしょう。楠本が運んで一気に背後を取れました。

こうした運び方ができていたからこそ,甲府は飲水タイムで5-3-2での守り方に変更したのだと思います。真ん中から効果的に運ばれている現状を1トップではなく2トップにすることでプレスをかけやすくして変えようと試みたのでしょう。

ただ,この変更も甲府の状況を変えるものとはなりませんでした。2トップのプレスバックの強度が上がりきらず,山口に真ん中を使わせないということが徹底できなかったからです。例えば,51分38秒に佐藤健太郎がボールを受けた位置がそうです。

これによって,3枚に減った甲府の中盤が中央に寄せられて3枚の脇のスペースを使われるというさらなる問題が出てきてしまいました。

山口とすれば,相手を見てプレーを続けられたことでシステム変更にもすんなり対応でき試合の主導権を握り続けることができたのだと思います。

相手を見てプレーをすることがこの試合の効果的な運び方の肝だったと感じています。シーズン残り3分の1に向けて良いヒントが得られた試合だったと思います。これからに大いに期待したいです。


*文中敬称略


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