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夏との向き合い方 〜J2リーグ第26節 レノファ山口FC vs 水戸ホーリーホック 振り返り〜

2019年J2リーグ第26節 レノファ山口FC vs 水戸ホーリーホックの試合は,1-0でレノファ山口FCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


チームに流れを生んだ佐々木匠の2つのランニング

水曜日の横浜戦から中3日の試合でしたが,見事な修正を見せ勝利を引き寄せました。その中で大きな役割を果たした選手が佐々木匠だったと思います。

前節の横浜との試合の中で感じたことが,ボールを持っている時のテンポの違いでした。山口の選手達は,横浜の選手達と比べてボールを受けてからパスを出すまでのスピードが遅いように感じられました。その要因は,出し手側の準備が足りないことや受け手側の動き出しが少ないことだと感じていました。

そんな中で佐々木は,受け手の動き出しという面で試合開始直後に素晴らしいプレーを見せました。これが山口の攻撃に流れを生んだと思います。

それは2分30秒からの一連のプレーです。三幸から川井にボールが出た時の佐々木の動きに注目してください。相手の左SBの志知と左CBの細川の間から裏抜けを試みるランニングです。このランニングで相手のディフェンスラインを下げた後,手前のスペースでボールを受け,左に展開していきます。そして,菊池から佐藤がボールを受けた時も先ほどと同様に,佐々木は相手の右SBの岸田と右CBのンドカの間から裏に抜けるランニングを見せています。このランニングによって前寛之が真ん中から引っ張り出され,佐藤のドリブルのコースができ,シュートまで持ち込めたプレーになりました。

佐々木のこの2つのランニングが攻撃の流れを作ったと思います。このプレーの良かったのは,まず裏に抜けるランニングの強度が高いところです。はっきりとした動きで本気でボールを受けようとするランニングなので,相手もついていきますし,味方もパスを出しやすくなると思います。

また,相手のディフェンスラインを下げさせ,中盤のラインとの間にスペースを生み出すことができる点が良いと思います。と同時に相手を引き連れる事で味方にプレーするスペースを与えることができる点も良いです。

このように,受け手としての動きの質が高く,出し手や他の受け手にメッセージを与えられたことで横浜戦とは違ったリズムが生まれていったのではないでしょうか。


さらに,この試合は裏抜けをしようとして相手のディフェンスラインを下げたところで止まって手前のスペースで受けるというプレーが,特に立ち上がりは多かったと思います。2分30秒の佐々木の受け方や13分35秒の高井の受ける動きなどパスの出し手と受け手の意図が共有されているプレーが出ていたのは,前の試合と比べても良かった点だと思います。


夏場の山口の守備スタンス

夏場の厳しいコンディションの中で,山口は相手のビルドアップに対して襲いかかるようなプレスを行い続けるという選択を取りませんでした。敵陣でボールを奪われた後で奪われたボールを奪い返すためのプレスは行いますが,相手がビルドアップを始めたところでは,まず構えるということが徹底されていました。

山口のブロックを構える位置は,1トップの宮代がセンターサークル付近から少し敵陣に入ったところであり,他の選手は自陣に入っているという場面が多かったです。基本的には,相手のCBにプレスをかけることはなく,シャドーの高井や佐々木が中へのパスコースを防ぐ立ち位置を取り,相手のCBがSBにパスを出したところでシャドーの選手なりWBの選手なりが規制をかけていくという守り方を採用していました。

この試合の基本のスタンスがこの守り方だったので,水戸が10人になった後も「構えてカウンター」というスタンスだったのだと思います。これはこれで良いと思いますし,この試合の水戸相手にはある程度はまっていたと思います。

山口の守備が水戸に効いていた要因は,これまた前節の横浜の攻撃と水戸の攻撃の違いにあると思います。

前節の横浜は,山口の守り方の中ではSBがフリーになりやすいという想定の中でどうやって崩していくかということが共有されていました。SBがボールを持った時に山口のWBがプレスに来れば,その裏のスペースに走っているSHにパスを出すし,WBがプレスに来なければSBがそのままボールを運ぶということが約束事として共有されていたのではないかと思います。ですから,SBがボールを持った時の次のプレーに移行するスピードが速く,山口のスライドが間に合っていませんでした。北爪と中山にやられたのはこのためだったのだと思います。

一方で水戸は,横浜のようにはっきりとした約束事があったわけではなかったのかSBがボールを持った時の次のプレーに移行するスピードが遅いと感じました。SBがボールを持ってから「次はどうしようか」と考える時間があるため,その分山口のスライドが間に合っていたのだと思います。ですから,左はSHの木村が裏に走っても志知がそこに出せず細川に下げるシーンは多かったですし,右も福満にパスが出ても菊池に対応されてしまっていました。

このように,水戸が山口の守備を攻略できなかったのは外から有効な崩しができず,中から前進するしかなかったからだと思います。時より中から相手を外してゴール前というシーンは作っていたものの,基本山口は中を締めているのでその数を多くすることができず攻撃で苦労することになってしまったのでしょう。


カウンターを狙いつつどうやって守るのか

山口は水戸の攻撃との噛み合わせの中で守ることができていた面もありました。しかし,中から前進させたくないのにそれを許してしまったシーンがありました。そういった守り方の中で1つ気になったシーンがあったので紹介したいと思います。

それは86分30秒あたりからのキーパーを使ってビルドアップしながら最終的に黒川のパスがずれて事なきを得たというシーンです。この時は水戸が4-4-1のシステム,山口が岸田が1トップの3-4-2-1のシステムでした。山口陣でボールを保持していた水戸が瀧澤にボールを下げたところからがスタートです。瀧澤に山下がややプレスをかけ,岸田和が右に大きく開いている細川にプレスをかけています。水戸は瀧澤→松井→細川→松井とつなぎ,松井から白井にパスが出ます。この時の山口の配置がかなりまずいと思います。まず白井がパスを受けた位置に本来1トップとしていなければならない岸田和がいません。これによって白井がドフリーです。

そして,最も気になるのが山下のポジション二ングです。山下は一度瀧澤に圧力をかけたところからそのまま残って松井から瀧澤にパスが出たところを狙おうとするポジションを取っています。おそらくこのポジション二ングは今書いた狙いとカウンターを打つために前に残しておきたいという狙いの2つが影響を及ぼしていたと思います。しかし,この試合の山口の狙いは「中を締めて外に出させたところを狙う」だったはずです。このポジション二ングでは中から侵入を許してしまうと思います。なぜなら,白井から前寛之という最短ルートがガラ空きになってしまっているからです。この場面でやらせて良いのは「松井→瀧澤→志知」という外のルートだと思います。「松井→白井→前」という中のルートは危険です。実際,白井から前寛之に簡単にパスが通り,黒川がフリーでボールを受けてというところまで行ってしまいました。

*白井がボールを持った時の立ち位置です。山下の後ろ三幸の横に広大なスペースがあることが読み取れると思います。

ですから,このシーンは山下は三幸の隣のスペースを埋めるために戻るべきだったと思います。ただ,ここで難しいのはカウンターも狙わなければならないことです。カウンターを打つために山下を前に残しておきたいということは理解ができます。山下が戻れば受けるだけになってしまうかもしれません。

カウンターを打つことを頭に入れながらどうやって守るのか」このバランスが難しいところです。そのために前線をどういった配置にするのかも含めこれから見つける必要があると思います。山下と岸田和を前に残したいのならば,2トップに1トップ下の配置でも良いのではないかと思ったりもしました。これでは外に広大なスペースを与えることになりますが,それは許容して最後中で跳ね返せば良いと考えればアリだと思います。

*このシーンを2トップ宮代トップ下の配置だったらこうなるかなと。宮代が真ん中で白井の持ち運ぶコースを消せるので,こっちの方が良さげかなと・・宮代が真ん中にいることで岸田翔へのパスコースが生まれていますが,それは外へのパスなので良いと思います。

いずれにせよ,カウンターを狙いながらどうやって守るのかという点はこれからも注意深く見守っていきたいと思いました。



目を離すことができないダビド・リューホの成長

この試合の菊池流帆のプレーは衝撃的でした。様々な媒体のベストイレブンに選出されているようですが,それも納得のプレーぶりだったと思います。1vs1の対応で幾度となくピンチを防いでいましたが,これは最近の菊池を見ていれば驚きはありません。1vs1で抜かれたら大ピンチの場面でも「菊池なら大丈夫だろう」という頼もしさは付いてきているように思います。

では何が衝撃的だったのか・・・それはパスです。決勝点につながる川井へのロングパスももちろん素晴らしかったのですが,そのパスよりかは菊池が出すグラウンダーのパスに衝撃を受けました。左サイドの高木へ送るパスや前線の選手に送る縦パスの質と精度の高さに驚かされました。パスを受けた選手が次のプレーに移行しやすいようなパスを出していました。強いパスでもボールが跳ねず足元にピタッとつくようなパスだったと思います。

例えば,決勝点の川井へのロングパスの直前の高木へのパスです。芝の影響でボールが少しバウンドしていますが,その前に菊池に出した吉満のパスと比べるとその丁寧さがわかると思います。

もちろん高木へのパスだけではなく攻撃のスイッチとなる縦パスも見事でした。前半終了間際の45分30秒の高井への縦パスや68分56秒の山下への縦パスは美しかったです。受けた選手がノーストレスで前を向ける強いパスでした。

菊池にこれができるようになるとより山口の攻撃が強力になると思います。前貴之・楠本だけではなく菊池からも攻撃のスイッチが入れられるようになれば,より相手の守備は難しくなるでしょう。

菊池の成長スピードは凄まじいものがあります。1試合も目を離すことができません。まだ,細かいポジショニングや力の加減が必要な弱めのパスなど課題もありますが,こういった課題もすぐ解決してしまうような期待感があります。

次のレイソル戦では強力なFW陣との戦いが待っています。攻守にわたって今の菊池ならやりあうことができるとも思いますし,そういった相手との対戦でまた1回り大きくなる菊池の姿にワクワクが止まりません。大きな期待感を持って三協F柏・「日立台」に乗り込みましょう。


*文中敬称略






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