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チームとしての形の積み上げとフォーメーション変更 〜J2リーグ第16節 水戸ホーリーホック vs レノファ山口FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第16節 水戸ホーリーホック vs レノファ山口FCの試合は,0-1でレノファ山口FCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


3バック変更による準備された守備

この試合のトピックスは,何と言っても山口が3バックを採用したことだったと思います。水戸としては,試合後の長谷部監督のコメントを見るに,ある程度予想をしていたのかもしれませんが,これまでと異なるフォーメーションという奇襲を受け主導権を握られてしまいました。

山口が主導権を握った要因の1つに,ボール非保持の際のポジショニングがあったと思います。ここの部分を見ていきたいと思います。

山口はボールを保持していない時には,5-4-1のフォーメーションとなります。このフォーメーションは,最前線に1人しかいないために,相手のビルドアップの際真ん中のスペース(1トップの周りのスペース)を使われやすいという欠点があります。つまり,相手のボランチの選手にフリーの状態でボールを裁かれやすいということです。

それを防ぐためのプレスのかけ方や配置は,様々にありますが,この試合で山口が見せた策には興味深いものがありました。

ここで注目していただきたいのは,池上丈二のポジショニングです。池上はこの試合3-4-2-1の2の右を担当しました。5-4-1になれば,4の右サイドを担当します。このポジションの選手は,相手の左SBを見ながら,プレスに行く時は左CBに圧力をかけていくという形がよく見られるパターンだと思います。山形戦のプレビューで書いた山形の坂元の守備はまさにこの形です。

ただ,この試合の池上は少し違うプレーをしていました。もちろん水戸のボールが左サイドにある時は,先ほどのような守備を見せることもありました。しかし,この試合で主に池上が見ていたのは,相手のボランチの選手でした。特に,水戸のボールが右サイドにある時にはそれが顕著でした。

14分の水戸のボール保持のシーンでは,池上はかなり左サイドにポジションを取っています。水戸の右CHの前寛之を池上がマークしているというぐらいに山口の左サイドにいます(14分20秒ぐらい)。すると,当然山口の右サイドにはスペースができます。水戸から見れば左サイドのンドカや志知が空きます。ですから14分30秒のシーンでは,右から左に展開をしてンドカにまでボールを届けています。この瞬間,山口は池上が戻って対応しようとしています。つまり,ンドカが何かできる時間とスペースが瞬間的に生まれたと言えるわけです。

ただ,ここでンドカは伊藤にパスを戻すだけとなってしまい,また右から進まざるを得なくなりました。このシーンでは瀬川の裏のスペースを取りかけることに成功しましたが,右から攻めさせる意図通りになったことで菊池がカバーをすることができました。

27分頃のシーンでも,水戸が右でボール保持している際に,池上はかなり内に絞ってボランチの平野を見ています。ですから,清水は空いているンドカにパスを出します。その後ンドカはそのまま左の志知に出しますが,志知には高木が対応することで事なきを得ています。

これらのシーンから読み取れるように,水戸は空いているはずのンドカのところから効果的に前進をすることがなかなができませんでした。

ここまでをまとめると,ンドカをある程度捨ててでも池上に相手のボランチを見させるという策を採用し,水戸に真ん中からの展開をさせず,水戸のボールを外回りにさせたり,ロングボールを蹴らせたりすることで主導権を握っていったと言えるのではないかと思います。

見事な準備からそれを実行した実際のプレーぶりがうまく噛み合った結果だったと言えるのではないでしょうか。


水戸のシステム変更を水戸視点で振り返る

これに対して,水戸は4-4-2から4-1-4-1のフォーメーションに変更することで主導権を握り返そうとしました。その狙いの1つには,先ほどの山口の守備に対応するという側面もあったと思います。中盤のダブルボランチの片方の選手を池上に掴まれてしまうために中からボールを運べなかったので,もう1人中盤を増やして打開を図ったのだと想像しています。

そして,もちろん山口のボール保持に対応するためのフォーメーション変更であったとも思います。水戸が2トップなのに対して山口は3バックであるために,水戸は数的不利な状況でプレスをかけなければなりませんでした。ただ,これは前節の愛媛戦でも同じ状況でしたし,慣れている状況だったと思います。それでも,プレスがうまくかからなかったのは,山口の攻撃的な姿勢にあったのでしょう。山口のWBが高い位置を取るために,水戸の4バックに対して5トップのような形も生まれ,前に行ききれなかったのかもしれません。

そのため,水戸の2トップの脇で前貴之や菊池,三幸などがフリーでボールを持てる現象が多く生まれていました。その脇のスペースをケアするために中盤を5枚にしたのだと思います。

しかし,この変更も水戸にとって良い薬とはなりませんでした。変更後も主導権を握り返せず守勢の時間が長くなってしまいました。その要因としては,いつもと違うフォーメーションで前から連動してプレスをかけることができなかったことが挙げられると思います。水戸の今シーズンの試合を全て見ているわけではないので,4-1-4-1をどのくらいやっているのかがわからないところがあるのですが,基本的には4-4-2で守っているチームだと思うので,そういった部分で難しさがあったと想像します。

ですから,山口にアンカー脇を簡単に使われることも多く,押し込まれる時間が長くなってしまいました。それでも,戻りの速さでクロスを最後のところで跳ね返していました。この辺りはさすが首位のチームだなと思いました。最終的には山口が勝ちましたが,水戸のしぶとさも目立った試合だったと思います。


チームは着実に前に進んでいるし,進まなければならない

山口としては,しっかりとした準備に基づいたフォーメーション変更によって,前への圧力を強め,勝利を挙げることができました。危ないシーンも何度かありましたが,水戸にいつもと違うことをさせたという点で勝利に値したとも言えると思います。

この勝利はもちろん大きなものであることは間違い無いのですが,それと同時に相手のビルドアップを制限する形を少しずつ蓄積できているという点が何よりも進歩だと思います。前々節のヴェルディ戦や前節の京都戦,そして今節の水戸戦と様々な形で相手のビルドアップを制限することに成功しています。こうやってチームとしての形を積み上げていくことで,どのような相手に対しても相手のゴールに矢印を向けていくというサッカーが表現できるようになると思います。

まだ,押し込まれた時の守備や相手のニアゾーンを取るための最後の崩しなどの課題もありますが,チームは着実に前に進んでいます。というよりも進んでいくしかありません。

これまでも,「今後山口は浮上していくだろう」と書いたことがありました。しかし,結果がなかなか好転することはなく,厳しい状況が続いていました。

今回のこの勝利は何としても浮上のきっかけにしなくてはならないと思います。なぜなら,悪い状況を打開するための策が少しずつ少なくなっていると思うからです。これまでは,大幅なメンバー変更や中盤の形を変えるという策を取ってきました。この試合では,3バックという大幅なシステム変更を行いました。

4バックから3バックという意味では,昨年も同様の変更がありました。状況や相手が異なるので一概に比較するのもどうかとは思いますが,昨年は9月の終わりの横浜FC戦で3バックに変更し,10試合以上勝てなかった状況を打開しました。今年は6月の最初の試合で3バックを初めて採用しました。

見方によっては,昨年よりも4ヶ月ほど早い,まだ6月の時期に3バックという策を使ってしまったと言えるのではないでしょうか。ある意味ではとっておきの策を使ったとも言えるわけです。ですから,この勝利は必ず次に繋げなくてはならないと思います。

その次の相手は横浜FCです。山口は大黒柱の前貴之が出場停止という厳しい試合になります。3バックを継続するのか,4バックに戻すのか,現時点では全くわかりませんが,勝つしかありません。勝つための土台は着実に出来上がってきていますので,大きな期待をして次の土曜日を待ちたいと思います。


*文中敬称略


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