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「1つ1つ積み重ねていくしかない」 〜J2リーグ第5節 レノファ山口FC vs 栃木SC振り返り〜

2019年J2リーグ第5節レノファ山口FC vs 栃木SCの試合は、0-1で栃木SCの勝利となりました。

今回はその試合の振り返りです。

前回までの試合についての感想は,こちらです。



1.試合の流れを大きく左右した両ベンチの選手交代策

栃木がこの試合勝利を収めた要因の1つには、選手交代をうまく活用したことが挙げられるでしょう。両チームの選手交代による戦況の変化が、とてもおもしろかったので、そこを振り返りたいと思います。

まず初めに動いたのは、山口の霜田監督でした。57分に左SBの瀬川に代えて、これまで前線のサイドで起用してきたパウロを投入します。

この交代の意図を考えるために、ここまでの試合展開をさらっていきましょう。

前半から山口は、栃木の4-4のブロックの間にパスを通しながら、サイドの深い位置まで運び、クロスを上げるという形を作っていました。ただ、中で合わせる選手は、1トップの工藤や逆サイドのWG(左からのクロスには高木、右からのクロスには山下)しかいないことが多く、栃木のディフェンスに跳ね返されていました。

つまり、クロスを上げるところまでは行けており、点数を取るために必要だったのは、中の枚数を増やすことという状況だったのです。

ですから、ディフェンスラインを4枚から3枚に減らし、サイドでプレーしていた山下と工藤を2トップの形にしたのだと思います。

山口がこのように、選手を代え、フォーメーションも4-2-1-3から3-4-1-2の形に変更したことは、栃木にどのような影響を与えたのでしょうか。

山口のシステム変更前、栃木としては、自分たちのディフェンスラインと中盤の間のスペースを佐々木匠に使われていたのは、嫌だったのではないかと思います。ただ、それでも最終的にクロスを跳ね返せば良いという考えもあったと思います(GKのユヒョンのビックセーブも出ていましたし)。

それが山口の変更によって、中で跳ね返すことが枚数的に難しくなる可能性が出てきました。CBの2人で工藤1人を見れば良かった状況が、2人で工藤と山下の2人を見なければならない状況に変わりました。

この変化が、62分という早い時間での4-4-1-1から、守備時は5バックになることも厭わない3-4-2-1のフォーメーションへの変更を決断させたのだと思います。

この変更には、少なくとも2つの意図があったと思います。1つはCBを2枚から3枚に増やして、クロスへの対応に備えることです。そして、もう1つが、間のスペースで受ける佐々木匠を潰すことです。この2つ目の意図が効いていたのではないかと感じています。

佐々木匠が使っていた間のスペースというのは、栃木のCB、SB、ボランチ、SH(サイドハーフ)の中点です。ここで受けられると誰がマークするのかが曖昧になってしまい、守備で後手に回ることになります。

栃木は、このように4バックの間を使われてるなら、3バックにして、初めからそのスペースにCBのサイドの選手を立たせることで、埋めてしまおうと考えたのだと思います。

この狙いは、田代投入後の最初のプレー(61分53秒頃)で早速効果を発揮しました。これまで通り相手の間のスペースでボールを受けようとする佐々木匠にパスが出たのですが、この時3バックの右に位置していた森下にまんまと潰されてしまいました。

4バックの時にはここに選手は配置されないのですから、3バックにした効果が出たといえるでしょう。

そして、この栃木を変化を見て、霜田監督は佐々木匠に代えてよりゴール前で仕事のできる高井を投入することを決断しました。それは、田代投入から6分後の68分でした。

この一連の交代は、相手の手に対応して素早く適切な手を打ち合うという意味で非常に面白かったです。

結果的には、山口の最初の交代から5分後かつ62分という早い時間での田坂監督の決断が、栃木に勝利をもたらしたといえるでしょう。



2.意欲とその器用さに驚かされた菊池流帆のプレー

連敗を喫してしまったという厳しいチーム状況の中で、菊池流帆のプレーぶりには大きな光明を見出せたと思います。

彼については、空中戦に強く、「おりゃー」と声を出しながらプレーするなどといった前評判を耳にしていたので、私は不器用な選手なのかなというイメージを持ってしまっていました。しかし、実際のプレーを見るとそんなことはありませんでした。

栃木戦でのプレーの中では,対人やヘディングの強さを見せるなど、長所の部分を存分に披露していましたし、最後はパワープレーのターゲットになるなど印象的な活躍を見せました。

その中で、私の印象に最も残ったのは、マイボールに対する意欲それを表現する器用さでした。

この試合の監督コメントを見てもわかるように、山口は敵陣でボールを持つ時間を増やすことを目指していました。これを実現するためには、奪われたボールをすぐ回収することや相手がクリアしたボールを多少のプレッシャーがかかっても、外に逃げないでマイボールにすることが重要だと思います。

菊池のプレーからは,その意欲がとても感じられました。例えば,3分57秒辺りのプレーでは、大黒のプレッシャーに対して、リスクを回避してキーパーにボールを返してもいいところを、ターンして前を向くことを選択し、成功させました(その後が繋がりませんでしたが)。58分41秒のシーンも相手の前線への浮き玉のパスを、トラップして(ぎこちなかったですが笑)坪井に繋いでマイボールにしたり、65分10秒のシーンでは、相手のゴールキックに対して、ただ単に跳ね返すのではなく、左に空いているパウロにヘディングでパスをしたりしていました。

こういったプレーは、地味ですが重要なプレーだと思います。一方で、リスクもあるので、とんでもない奪われ方をして失点につながってしまうというプレーが今後出てしまう可能性もあると思いますが、今の意欲をというものを見ていきたいなと思います。



3.山口の開幕からのシステム変更による功罪

山口は、開幕から4-3-3のフォーメーションで戦ってきました。中盤の構成において、三幸をアンカー、その前に2人のインサイドハーフを置く、いわゆる逆三角形のシステムを採用していました。

この形が、愛媛戦の途中から、そして栃木戦において変化が見られました。中盤の構成が、三幸と吉濱のダブルボランチ、佐々木匠をトップ下にする三角形のシステムになりました。

この変更には、様々な狙いがあると思いますが、攻撃において、良いことをもたらしている面もあれば、また新たな課題を生んでいる面もあると感じるので、そこの点を1点ずつ言及しておきたいと思います。

この変更によって、最も良くなったと思う点は、「相手のディフェンスラインと中盤のラインの間を取れるようになった」ことです。これは、1でも書いたことですが、佐々木匠をトップ下に置くようになったことで、間で受けることが得意な彼をより活かせるようになったと思います。

その要因としては、間で受ける選手に対してパスを供給する中盤の選手が増えたことが1つでしょう。以前のフォーメーションでは、三幸1人だけだったのに対して、このフォーメーションでは、吉濱も加わり、2人いることが大きな違いです。

そして、もう1つの要因は、佐々木が自由に動けるようになったことだと思います。以前は佐々木の動きに制約がありました。それは、彼の横には吉濱がいるため、吉濱が左にいる時には佐々木は右にいないといけないというものです。吉濱も間で受けて前を向くといったプレーができないわけではありませんが、佐々木の方が得意ではあると思います。

ただ、現在は佐々木の横に位置する選手は誰もいないので、ボールが左にあっても右にあっても、ボールがある方のサイドのスペースに寄って行って、ボールを受けることができるのです。

これによって、山口は右からでも左からでも相手の間を取りながら、ボールをスムーズに前進させ、サイドまで運ぶことがより効果的にできるようになったと思います。

(佐々木はインサイドハーフの時も、ボールサイドに寄ってしまう傾向がやや見られたので、だったらそれを存分に活かせるトップ下にしてしまおうということなのかもしれません。)


一方で、このフォーメーションになったことによる新たな課題は、クロスに対する中の枚数の確保だと思います。IHに2人いれば、ボールサイドの反対側の選手がPA内に入ってクロスに合わせるのは、難しくありません。実際、そのポジションで起用されていた吉濱は、クロスの際何度もPA内に入っていました。この場合、中の枚数は、1トップの選手と逆サイドのWGの選手、そしてIHの選手の3人であることが多いです。

しかし、トップ下が1人の場合は3人目の選手の確保が難しくなっています。栃木戦の前半、クロスは9本ほど入ったのですが、そのうち6本は中の枚数が2枚でした(私調べなので、正確な数値ではないかもしれません。。参考程度に)。特に、左からのクロスには、大外のパウロがあまり入って行っていないように見えることもあり、事実上工藤1枚のような状況もありました。

ダブルボランチの1枚が入っていくのか、佐々木匠がスペースで受けてさばいた後に、もう1度PA内に入っていくのかなど、方法は様々あると思うので、その辺りの進化を期待したいと思います。

ここまで述べてきた利点と改善点は、ごく自然で当たり前のことかもしれませんが、改めて文字にし、意識することも今後の試合を見ていく時の助けになると思ったので、書いてみました。



試合自体は、栃木の的確な選手交代とユヒョンのビックセーブによって負けてしまいましたが、ここからのシーズンに向けてまた新たな課題や光明が見えたことが重要だったと思います。この状況を好転させるには、良かった部分と改善していかないといけない部分を1つずつ洗い出して、積み重ねていくしかありません。
勝負はこれからですので、慌てることなく応援したいと思います。

*選手の敬称は略させてもらいました。



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