見出し画像

強気の姿勢が上回られた時に 〜J2リーグ第29節 レノファ山口FC vs V・ファーレン長崎 振り返り〜

2019年Jリーグ第29節 レノファ山口FC vs V・ファーレン長崎の試合は,0-4でV・ファーレン長崎の勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


意欲的な試合の入りで主導権を奪った長崎

4-0という大差がついた試合になりましたが,まず長崎が良かったことを認識する必要があります。山口がどうこうの前に長崎の良かった点,特に意欲的な試合の入りの部分を見ていきましょう。

長崎は試合の立ち上がりから連動するプレスでボールを奪いに来ました。特に山口のSBにボールが入ったところで局面を作って奪うことを試みていました。8分50秒あたりからのボール奪取のシーンはまさにといったところでしょうか。

このシーンは山口の左SB石田にボールが出たところで右SHの大竹がプレスをかけスイッチを入れます。そして菊池に戻すパスコースは呉屋が消し,石田からCHの佐藤にパスが出るとCHの秋野が,佐藤から左WGの山下にパスが出ると右SBの亀川が潰しに行って最終的にはカイオが回収しました。プレスの強度,連動が素晴らしい守備でした。

このように山口が4バックだったこともあり4-4-2の長崎のプレスがはめやすかったかもしれません。とはいえ,長崎の守備の圧力があってこその結果だったと思います。長崎が見事な試合の入りを見せました。

--今日は立ち上がりからプレッシャーを掛けにいったと感じたが、山口を押し込む意図があったのか。

 山口に押し込まれて逆の状態になると、私たちも苦しくなる状況は分かっていたので、相手より先にそこで主導権を持って高い位置からボールを奪ってという狙いはありましたし、それが狙いどおり結果につながったのが良かったと思います。

これはJリーグ公式サイトに載っている長崎の原田コーチのコメントです。このコメントからも前から奪いに行こうという意図が読み取れます。


強気の姿勢が仇となった前半の山口

一方で山口は,そんな長崎に対応することができず主導権を握られる立ち上がりとなってしまいました。では,なぜこのような入りになってしまったのでしょうか。それを見ていくために考えたいことがいくつかあります。

まず長崎が前線から強度の高いプレスでボールを奪いにくる想定がどこまでできていたのかということです。前からくる長崎のプレスをまともに受けてしまうシーンが立ち上がりに3度ほどありました。それに対する準備はどの程度できていたのでしょうか。

そこで,先週時間が取れず見れていなかった長崎vs柏を視聴しました。長崎の試合を全て見ているわけではないのですが,柏戦の長崎は自分が持ってイメージに近いチームでした。それは,最前線の選手が何度もスプリントをして守備をするのではなく1度1stラインを突破されたら後は中盤と最終ラインで守るという戦い方です。

柏戦の長崎はいつもの4-4-2ではなくアンカーポジションに角田を起用した4-1-4-1でした。柏は4-4-2でしたから2CBに対して1トップの呉屋が数的不利で守備をしなければならず,前線からのプレスがはまってボールを奪うシーンは5分のシーンぐらいでした。途中IHのカイオが前に出て行って呉屋と2トップ気味にプレスをかけようとするものの三原やヒシャルジソンを捕まえられなかったり,染谷にフリーで持ち運ばれて川口の突破を許したりしていました。ですから,長崎はセンターサークル付近で構えてから守備をするというやり方に収まっていったように見えました。

柏戦の長崎と山口戦の長崎には前線からのプレスという点で違いがあるように見えました。山口としてみたら長崎は思ったよりも前線からボールを奪いに来たというのが正直なところだと思います。

ただ,長崎を前から来させたのも山口に要因があると思います。次に考えたいことは長崎の4-4-2に対してどのように前進しようとしていたのかということです。

山口は前節の甲府戦と同様4-2-3-1のシステムで試合に臨みました。このシステムは2CBに対して長崎の2トップといったように長崎の4-4-2に対して噛み合わせが良いものとなります。長崎の前節の入りが4-1-4-1だったとはいえ後半は4-4-2でしたし,この試合も長崎が4-4-2で来ることは想定できていたでしょうからそれを踏まえた上で,山口は4バックを継続したのだと思います。

山口とすればシステム的に噛み合わせの悪い3バックを採用し,長崎の2トップに対して3枚の最終ラインで数的優位を作りビルドアップをするという方法もあります。前線も1トップに2シャドーそしてWBの5枚となれば長崎の最終ラインは4枚ですから数的に優位を作れる可能性があります。

しかし,山口はこの方法ではなく4バックで噛み合わせをよくすることを選択しました。こうなると山口は自分達から形をずらして前進していくか個人の技量によってマンマーク気味に来る相手を剥がしていくかになっていきます。

この試合はまず後者を選択していたと思います。長崎が人についていくという傾向を利用しあえて噛み合わせがよくなるように配置をしてマンマーク気味に来させ,その裏を取って剥がしていくことを狙っていたのではないかと思っています。

この狙いが出たと思われるシーンも立ち上がりに1度ありました。それが11分からのシーンです。

菊池から石田にパスが出たところで大竹がきます。先ほど書いた8分50秒のシーンと同じです。石田から前貴之にパスが出るとカイオがといったように山口の選手1人に対し長崎の選手が1人付いてくるという状況です。その後は前から石田,石田から宮代に当て石田が受け直し,石田から川井に展開され敵陣に侵入することができました。個人の技量と出して動くというシンプルな形で相手の前向きの矢印の逆をとって前進することができたシーンでした。敵陣に進入した後もボールを奪いにきた大竹を石田と佐藤の関係で剥がし,宮代が斜めに走ったことで角田を引っ張り三幸がフリーになるなど非常に惜しい場面でした。石田は宮代にパスを出しましたがそこには角田がついて行っていたので,三幸にパスが出せればといったシーンでした。

このように狙いが出せた場面もありましたが,前線からのプレスで奪われるシーンも目立ちました。その要因は長崎の奪いにくる圧力が想定より強かったことにあるのではないでしょうか。山口は「前線から奪いに来るなら来てくださいそこをはがしますから」という姿勢で臨んだものの長崎の選手のプレスの強度を上回ることができなかった,特にカイオの圧力が相当のものだったのではないかと思います。これが主導権を握られてしまった要因の1つだと考えます。

最後に長崎に対してどうやって山口がボールを奪おうとしていたのかについても考えたいと思います。先ほど書いた山口のビルドアップに対する長崎の守備とは逆で長崎のビルドアップに対しても山口の守備ははめやすい噛み合わせとなっています。

しかし,長崎は中盤の選手が1人最終ラインに下りて3バック化することを山口より明確に行ってくるチームです。こうなると噛み合わせは悪くなります。より明確にというのは,例えばカイオが下りて徳永カイオ角田の3枚の最終ライン,SBの亀川と香川が高い位置で幅を取りもう1枚のCHの秋野と前線から下りてきた玉田が真ん中で4枚の中盤を形成,SBが高い位置を取ることによって中に絞ったSHの大竹と澤田そして最前線の呉屋の3トップ,といったように4-4-2から3-4-3に変形する形を持っていることです。

この形は柏戦でも見られていましたし,山口の想定の中にあったと思います。これでもボールを奪えると踏んで4-4-2でのプレスを選択したのでしょう。例えば24分30秒のようにWGの山下がCBの徳永のところまで出て行ってプレスをかけボールを前に蹴らせて奪うといった形です。

このようなシーンをたくさん出したかったのだと思いますが,これも思ったより長崎のボールの持ち方がうまかったのではないかと感じています。秋野の左足でいつでも蹴れるよといった持ち方やカイオの技術,徳永の運び方など行っても取れないという感覚が試合をしていく中で出てきたのだろうと推測しています。そして,長崎の変形に対し受け渡すのか付いていくのかが曖昧になったという流れだと思います。

つまり,個人の技量や局面でのグループの連動で相手を上回ろうという真っ向勝負の姿勢で臨んだものの,蓋を開けてみると「思ったより」ということが攻守両面で重なり後手を踏んでしまった,そこで耐えきれず失点を重ねてしまった前半だったのではないでしょうか。

ですから,2失点したところで相手を認めてチームとしての配置で優位性を得ようということで3バックに変更したのだろうと思います。こうした試合前の思惑と試合の中でのズレと我慢しきれなかったことが重なっての0-2という前半の結果だったのではないかと思います。


仕留めきれなかった後半で浮かび上がる山口の守備

後半は少し毛色の異なる試合になりました。それは,長崎が前線からのプレスで奪いにくる頻度を下げたからです。おそらくあの強度では90分続けられないことと2点リードしていることなどが関係していると思いますが,これまでの長崎のように2トップはうまく守備をサボりながら前に残り,4-4で守ってカウンターという狙いに変化しました。それによってセンターサークル付近でブロックを構えることが増えました。と同時に山口が三幸をアンカーに置いた4-3-3のシステムを後半開始から採用しました。

これらの要因によって山口が簡単に長崎の1stラインを突破して4-4のブロックへ攻撃していくという場面が増えていきました。この流れの中で1点も奪うことができず逆に2点取られたことが非常に悔しいです。

前半にも惜しいシーンはありましたが,後半の方がチームとしての攻撃の中で惜しいシーンを作り出した数は多かったと思います。56分の三幸のクロスに宮代のヘッドや60分の三幸から山下が裏に抜け出してパスを受けたもののハンドとなってしまったシーン,71分のパウロから佐々木がニアゾーンでパスを受けたシーン,79分の池上のクロスに工藤が合わせかけたシーンなどです。

こういったシーンを作っていながら点が入らなかった要因の1つには長崎の最後のところでの守備の集中があります。やられかけても最後のところにはマークをしっかりつき山口にやらせていませんでした。71分のシーンでは佐々木に澤田が付いて行ったり,79分では工藤に徳永がついてブロックをしたりなど最後の集中が見事でした。

それから,山口の守備がうまくいかなかったことも点が奪えなかった要因だと思います。守備がうまくいかないことで殴り続けられず,長崎にボールを持って落ち着く時間を与えてしまいました。

どううまくいかなかったのかというと,ボールを奪いたいから前線からプレスをかけるものの自分のポジションに立ってから出て行っているわけではないので,後ろが連動できず簡単に剥がされてしまうというものです。

54分10秒のシーンは相手にカウンターを打たれてなんとかクリアをしたボールが相手にこぼれた時に,後ろの体勢が整っていないにも関わらず山下が角田に単騎で奪いにいく,しかし後ろは付いて来ていないので山下は簡単に剥がされ角田→徳永→秋野→玉田→大竹→呉屋と真ん中から簡単にゴール前まで運ばれてしまいました。アンカーの三幸の手前から背後,楠本がそれによって釣り出されて手前から背後を使われかけるという場面でした。玉田から大竹のパスがずれたことでオフサイドとなりましたが非常に危険な場面でした。

63分から64分にかけてのシーンも香川のクロスから呉屋がヘディングをするまで全く守備が連動できず,中を使われて外そして中と完璧に崩された場面でした。

このように,山口は相手にボールを保持された時にチームとしてボールを奪いに行くことができず自分たちのゴール前まで運ばれてしまったことで長崎に息をつかせてしまい得点を奪い切ることができなかったのではないかと思います。

そして,玉田の完璧なFKと奪われたボールを奪い返しに戻らずサボったことで2点を逆に奪われるという後半になってしまいました。


改めて課題と向き合い次へ

この試合で出た課題は2つだと思います。1つは試合前の想定と異なることが起きた時に対応する,対応しきれないのならば我慢をするということです。うまくいかない前半を0-0で折り返す,少なくとも0-1で折り返すことをする。もしくはこの試合の前半もチャンスはあったわけですからそれを決めて1-2で折り返すことが求められます。

2つ目は自分たちの流れの時に流れを手放さずに仕留め切るということです。これには攻撃だけではなく守備も重要になってきます。チームとして連動することが求められます。

この試合はこの2つの課題が同時に起きてしまったことが敗因だと思います。どちらかができれば当然違った展開になりました。これまでの試合でそれができたことによって勝利できた試合もありました。今季唯一の逆転勝ちである福岡戦なんかはまさにうまくいかない前半を1-2で折り返せたからこそ生まれた逆転劇でした。

改めて突きつけられた課題と向き合いそれを乗り越えていく姿を見守っていきたいと感じました。幸か不幸か次の相手も4-4-2のシステムを採用するチームです。同じ4-4-2でも細部のやり方はもちろん異なりますが,この試合の課題を踏まえた上での山口の戦いを現地で目の当たりにしたいと思います。


*文中敬称略



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?