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第4章<南仏マルセイユ生活始まる>④【地中海北縁の旅と生活】

香高堂 【地中海北縁の旅と生活】第4章<南仏マルセイユ生活始まる>④
 
《数少ない日本人に出会う機会》
 9月のある日曜、エクサンプロバンスの日本人との懇親ゴルフに参加した。この日も強い風が吹き付け、手持ちの衣類を重ね着して何とか寒さ対策をした。あの夏の暑さは何であったのかと思うが、幸い身体を動かして風邪も吹き飛ばす。スコアは問題にならないぐらい酷いものだった。
 夕方からのエクサンプロヴァンスの寿司屋で打ち上げ、久しぶりの日本語でもあり、会話が弾んで帰りは23時過ぎになった。マルセイユ近郊に住む日本人は割と多いと聞くが、ほとんど会うことは無い。10月1~2日は総領事館と在住日本人の協力による「秋祭り」があり、私も参加協力する予定になっているが、この時が多くの日本人に出会う機会だろう。
 
 マルセイユに着いてから1か月、アパートメント探しは大家に断れることが相変わらずだが、やっと一つ目途が出てきた。だが、必要書類の確認とか面倒なことも多く、正式にはまだ決まっていない。そんな中の一息、マルセイユの国際見本市に出かけた。

 地下鉄ロンポワン駅近くにあるビッグサイトのような見本市会場では、ワイン/食品、工芸、ファッション、インテリア、グルメ、ガーデニング、エアコンや断熱材まである。一般客も多く、レストランブースもやたら設けられているが、SUSHIやアジア系の飲食店は1店だけで、肉を使った南米系の店が多い。日本人スタッフもいた。
 それにしても歩いたなあ、久しぶりに、私に会場を伝え間違えた人がいた。アパートメントホテルから歩けば20分ほどなのに、何故か地下鉄を乗り換えてやっと辿り着いた。

 教え間違いの当人、家のカミサマは家探しの手配をしながら日本総領事館主催の<マルセイユ秋祭り>の準備に追われており、朝8時に出て、帰りは夜10時を過ぎる日々になっている。総領事館周辺にレストランは少なく、ランチ弁当を買う時間もないため、先週から2食分のお弁当を用意することになった。簡単なものしか出来ないが、これも悩みどころである。
 
 短期滞在アパートホテルは台所が狭く、手順を決めて段取り良く料理をしないと混乱する。さらに冷蔵庫が小さいため買い置きも少なくなり、毎日のようにスーパーに買い物に行っている。野菜類は湿気のためか、性能が悪いのか、野菜室に入れても腐りやすい。サラエボの乾燥気候に慣れた身には、その違いを実感することが度々である。

 食品食材事情はおいおい書き連ねていくが、まずは<秋祭り>を終えなければならない。現地日本人会のボランティア活動で成り立っているが、日本からアーティストを招いている。どうやら私もアテンドやらカメラマンで駆り出されそうである。天気予報では晴れの日が続く日々の中、土曜は雷交じりの雨が降るようである。
 
 
天を仰いで空を観る、9月末になっても改めて部屋探し》
 相変わらず大家の賃貸拒否にあっているが、新しい住まいが決まると短期アパートメントに置いてある荷物、ある場所に預かってもらっているもの、まだサラエボに残っている引越荷物の段ボールの山を運び込まなければならない。10月下旬に肝臓ガン検査での日本帰国を考えているが、引越日が決まらないと帰国予定が立たない。
 
 天は試練をも与える様で、アパートメント探しに悪戦苦闘している。不動産屋で紹介される物件は古いものばかりで、新しい物件は少ない。旧い港町のマルセイユでは街の発展はこれから、時期的に部屋のリノベーションが始まっているのかなと思っていた。一方、1か月前の転居告知と言う制度もあるようで、月末に物件が出ると聞いていたがそれも少ない。また、8月はヴァカンスシーズンで移動が少ないからと思っていたが、9月に入っても少ない。
 
 また、一度は決まりかけた希望通りのアパートメントが、何故か入居不可となった。大家にも会うことが出来ず、説明を聞くことが出来なかった。不動産屋なのか、大家の考えなのか分からないが、それなりに裏調査をしてみると状況が分かってきた。マルセイユはアフリカなどからの移民が多いが、まだ日本人もある種の人種差別を受けることがあるようだ。
 実は物件は紹介されるが、大家に「外国人外交官だから」と拒否されるケースが相次いでいる。フランスにおける数度のテロ事件は、移住希望者以外の<外国人居住希望者>のにも影響が出ているようだ。マルセイユだけでなく、パリでも同様な動きがあり、仕事で赴任するビジネスマンは会社契約ということで解決出来ることもあるようだが、それでも苦労しているようだ。
 
 この状況には二つの要素が見え隠れする。まずテロ事件対策のために、フランス政府は外国人居住者の賃貸条件を厳しくするように不動産業界に通達を出しているようだ。また、この地では賃貸料の不払いが生じた時に加入する保険があるようで、その保険に入れるかが課題となる場合もある。だが、外交官の場合は条約上免税特典もあり、この保険に加入する義務は無いとされている。
 
 もちろん賃貸契約は個人であり、外交官=国家契約にはなれないというジレンマが生じて来る。本来は信用度の高い外交官であるが、アフリカ、アジア系の途上国には滞納して帰国してしまうものもいるようだ。とにかく、売れ残った古い物件を押し付けられることが避けたいということで、アドバイスをいただきながら、部屋の条件緩和をしながら必死に探している。秋の気配が漂う天候になってきたマルセイユ、青い空には様々な形をした雲が広がる。天を仰いで嘆くことだけは止めよう。
 
 外交官身分で、あのSUSHI文化の日本人ならばと、安易に考えていたが、どうやら手強いフランス人も残っているようだ。さて、沈みゆく夕陽を見ながら、改めて国際性や文化について考えさせられた。我らの「陽がまた昇る」のはいつになるであろうか、部屋探しを改めてスタートさせる。

 『日はまた昇る』はヘミングウェイの小説で、ヘミングウェイはスペイン内戦に関わり、その経験を元に『誰がために鐘は鳴る』『武器よさらば』などを書いた。短編には簡潔文体の作品が多く、ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーに続くハードボイルド文学の原点とされている。

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