催眠術師のための条件づけ入門(案)

※このノートは執筆途中のものです。

はじめに

このノートは、条件づけという理論について、できる限り分かりやすく噛み砕いて説明するとともに、それを催眠に応用するための実例を書いたものです。読者は、催眠を実践している人又は催眠に興味がある人を想定して書かれていますが、催眠に全く興味がない人でも分かりやすく楽しく読めることを心掛けて書かれています。

このノートは、条件づけを専門書で学ぶほどではないが、催眠に応用できる部分の知識はきちんと知りたい人に向けて書かれたものです。ただし、催眠に応用できるということは、その他のコミュニケーションにも応用できる可能性はありますので、催眠や心理学に少しでも興味がある人に読んでもらえたら嬉しいです。

条件づけをきちんと学びたい人は、このノートを読むよりも、そのための専門書を読んでください。このノートを作るために参考にした本はお知らせします。それらを読めば、このノートよりも深く正確に条件づけについて学ぶことができると思います。このノートは、あくまで催眠術師に向けたもので、条件づけを専門的に学ぶものではありません。

このノートは、条件づけを専門的に勉強したい人向けではありませんが、内容は入門書以上のものが書かれています。ネットで検索したらすぐ出てくるような内容ではなく、専門書に近いレベルのものがわかりやすく書かれています。また、説明の実例として催眠で起きていることが書かれていますので、催眠に興味がある人は楽しく読めると思います。

条件づけは、人の行動の変容をシンプルかつ強力に説明してくれる理論です。そして、最新の条件づけは、人が生きることの価値観までを扱うことができます。とても興味深いこの考え方を、ぜひ多くの人に知ってもらえればと思います。

コンテンツ

・はじめに
・催眠は条件づけ
・条件づけの概要
・レスポンデント条件づけ
・オペラント条件づけ
・ 関係フレームづけ

催眠は条件づけ

催眠で起きることは、全て条件づけで説明できます。条件づけによって催眠を理解することができます。条件づけを理解することは、催眠の知識を増やすことではなくて、催眠が使えるようになることです。つまり、条件づけは催眠を上達するための手段になります。

催眠の理論は、全くデタラメの素人理論から心理学という学問としての理論まで様々なものがあります。"催眠とは物事の判断をする顕在意識をすり抜けて判断をしない潜在意識に暗示を届ける方法"という考え方がポピュラーですが、他にも念力みたいな特殊なものによって催眠が引き起こされると考える人といるようです。心理学的な催眠の理論もいくつも存在していて、催眠に興味がある人でも何が正しいのか分かりづらいのは確かです。

催眠の心理学的な理論が複数あるのは、催眠を捉える切り口が違うためです。例えば、「催眠解離説」は催眠中の心理状態に注目した理論になるだろうし、「催眠努力説」、「催眠役割説」、「催眠動機づけ説」は催眠現象で起きる内的な心理プロセスに注目した理論になるのでしょう。そんな切り口の一つとして、催眠条件づけ説というものがあるのです。

条件づけは、催眠の理論ではありません。本来、条件づけは、人の行動について予測と制御をするための理論です。条件づけは、催眠を含む人の行動や学習についての理論です。そして、条件づけは実践的な理論であり、いわゆる机上の空論というものではないとも重要です。

条件づけは、普段の会話にも使われるくらい有名な心理学の理論です。思わずやってしまったことを「条件反射的にやってしまった。」と表現することはよくありますが、これは条件づけの用語です。また、条件づけの代表的な実験である、パブロフの犬の実験を知っている人も多いです。

しかしながら、条件づけを正しく理解している人は少ないです。有名であるからこそ、知っているつもりになってしまいがちです。そして、間違った理解のまま使われてしまうため、正しく理解している人がなかなか増えないのが現状だと思います。

実際に条件づけを正しく学ぶことは、関係する用語が難解なことなどから、少し労力が必要です。このノートでは、できる限り用語なども理解のしやすいものに言い換えて、学ぶためのハードルを下げて書かれています。それと同時に正しい用語も必ず併記しています。

正しく条件づけを学ぶことで、催眠で起きていることが理解できます。そして、それを理解することで、催眠誘導のポイントが分かります。その結果、あなたは精度の高い催眠誘導ができるようになるとともに、根拠のある新たな誘導方法を作り出すことができます。逆に今までとりあえずなんとなくやっていた無意味な誘導をしなくなって、催眠が洗練されることでしょう。しっかりと応用できればエリクソンのように会話をしているだけでの催眠もできるようになるかもしれません。

条件づけは学習

実はこのノートで扱う条件づけとは、学習のことです。ですから、条件づけの理論とは学習理論ということになります。このノートのタイトルは「催眠術師のための学習理論入門」と言い換えれるのですが、多くの人に読んでもらうため少しキャッチーな"条件づけ"という言葉を使っています。

このノートで扱う学習とは「経験によって生じる比較的永続的な変化」のことです。ここでいう経験とは、とりあえず全ての刺激や環境の変化のことだと思ってください。比較的永続的とは、偶然できた一回限りの行動は学習ではないという理解をしていてください。

条件づけの概要

条件づけは、「レスポンデント条件づけ」と「オペラント条件づけ」の二つがあります。レスポンデント条件づけは、古典的条件づけと呼ばれることもあります。オペラント条件は、道具的条件づけと呼ばれることもあります。

催眠に古典催眠と呼ばれるものがあるように、条件づけにも古典と呼ばれるものがあるのです。しかし、古典催眠の対になるのは現代催眠ですが、古典的条件づけ対になるのは道具的条件づけとなるので間違えないよう注意が必要です。

レスポンデント条件づけは、人が持つ生まれつきの反応をそれを引き起こす刺激とは別の関係のない刺激によって引き起こされるようにする方法のことです。具体的いうと、唾がでる反応(生まれつきの反応)をレモンや梅干し(それを引き起こす刺激)とは別のベルの音(関係ない刺激)によって引き起こすための方法が、レスポンデント条件づけです。

レスポンデント条件づけは、生まれつきの反応を扱うといことが重要です。それ以外の反応(行動)は、オペラント条件づけで扱います。生まれつきの反応は限られていることから、レスポンデント条件づけが適用できる範囲は限られていますが、催眠に関しては、基本的な催眠誘導の多くがレスポンデント条件づけによって説明できます。

オペラント条件づけは、人の行動を環境の変化によって予測・制御する方法です。具体的にいうと、メガネを掛けること(行動)を良く見えるようになること(環境の変化)によって、メガネをいつも掛けるようになる(制御する)方法が、オペラント条件づけです。

オペラント条件づけでは、人の行動を予測・制御します。注意しなければならないのは、この場合の行動とは普段私たちが日常で使う行動とは意味が違うことです。詳細はオペラント条件づけの項目のところに書かれていますが、行動という言葉の使い方が違うということだけはとりあえず覚えておいてください。

オペラント条件づけで扱う行動の範囲は広いのですが、その中で特に重要となるのが言語行動です。言語行動は、言語を扱うことのできる人特有の行動で、催眠誘導や催眠で起きることのほとんどは言語行動によって説明が可能です。

ルール支配行動とは、言葉の受け手の行動です。ルール支配行動は、直接の環境変化による強化等がなくても起きるもので、多くの催眠現象はルール支配行動によるものだといえます。

オペラント条件づけの根底にある考え

オペラント条件づけは、文脈主義と呼ばれる考え方によるものです。このことは、行動の制御における方法論の違いに現れたりするのですが、とりあえずは、ベースとなる考え方が違うということだけを理解しておきましょう。

また、オペラント条件づけは、機能主義と呼ばれる考え方によるものです。これは、人の行動を形態だけではなく、その機能に注目する考え方です。例えば、同じ手を挙げるという行動でも、教室で挙手するのと、肩凝りを解消しようとして挙手するのでは、同じ行動でも機能が違うということに注目します。

機能主義で考えれば、催眠誘導は形的には話しかける行動ですが、機能的には催眠現象を引き起こすためのものであるといえるのです。形態よりも機能に注目することで、催眠誘導が何をしているのか、何をすべきかということがわかるのです。

レスポンデント条件づけ

レスポンデント条件づけの説明は次のとおりです。

1.人がそもそも持っている刺激と反応があります(例:エサと唾液。酸っぱいものと唾液。大きい音と怖いという感情)。
2.その刺激を無条件刺激といい、その反応を無条件反応といいます(例:エサ、酸っぱいもの、大きい音は無条件刺激。唾液、怖いという感情は無条件反応)。
3.無条件刺激と条件反応と関係ない刺激を中性刺激といいます(例:ベルの音、白いヌイグルミなど)。
4.無条件刺激と中性刺激をペアで提示します(エサを見せるときにベルを鳴らす。大きな音を出すときにぬいぐるみを置く)
5.すると、中性刺激だけで無条件反応が起きるようになり、これをレスポンデント条件づけといいます(ベルだけで唾液が出る。ヌイグルミを怖がる)。
6.レスポンデント条件づけがされた中性刺激を条件刺激といい、条件刺激によって起きる反応を条件反応といいます。

正直なところ、正確な用語や理屈は難しいです。なので、催眠術師として理解すべきポイントに絞りたいと思います。催眠術師のためのレスポンデント条件づけは、

ある刺激によって引き起こされる反応を別の刺激で引き起こすようにする方法。

です。重要なのは、特定の刺激によって起きる特定の反応があることが前提となることです。これがない場合は、レスポンデント条件づけでは扱えません。

さて、上記の定義を理解した上で、レスポンデント条件づけで説明できる催眠誘導について解説していきたいと思います。

振り子法(観念運動及びイメージ誘導法)

振子を使った催眠誘導を含めて、いわゆる観念運動やイメージを使った催眠誘導は、レスポンデント条件づけによるものです。

振子を使った催眠誘導は、掛かり手に振子を持たせた上で、振子が揺れるイメージ(観念)を持たせることで、振子が揺れ始めます。この際の、イメージや観念という刺激は振子が揺れるという反応を引き起こすものです。そして、この刺激と反応に、暗示という言葉をペアで提示することで、揺れるという反応が暗示と条件づけられるのです。

イメージや観念を使う催眠誘導の全ては、同じ理屈でレスポンデント条件づけを使ったものになります。

後倒法、不安定による揺れと言葉を条件づける。

凝視法、凝視による疲労感と言葉を条件づける。

パス法、触ることによるリラックス感と言葉を条件づける。

レスポンデント条件づけが、多くの催眠誘導に使われていること知っていただけたでしょうか。しかし、残念ながらレスポンデント条件づけだけでは、催眠の全てを説明できません。レスポンデント条件づけが説明するのは、暗示という言葉によって特定の反応を引き起こせるようになるところまでです(ここまででも十分おもしろいですが)。なぜ、レスポンデント条件づけがされていない反応も暗示によって引き起こされるようになるかについては、オペラント条件づけによって説明できるようになります。

オペラント条件づけ

催眠術師が掛かり手を強化しているとき、催眠術師もまた掛かり手から強化されています。

モデリング

全ての催眠的行動を直接に強化することには無理があります。それを解決するのが、モデリングとルール支配行動です。

言語行動

オペラント条件づけでは、言葉(会話)も行動として扱います。オペラント条件づけで会話を考えるとき、話し手の行動と聞き手の行動に分けます。

オペラント条件づけでは、言葉を国語的な文法や意味などで考えず、その機能に注目して分析します。例えば、「お腹空いたね」と相手に言う行動は、「そうだね」と共感的な反応を得るためのものと、「おやつをどうぞ」と食べものをもらうためのものとでは、その機能が違うので、別の行動として扱うということです。

話し手の行動は、言語行動といいます。

聞き手の行動は、ルール支配行動といいます。


関係フレーム理論

まとめ


サポートは大歓迎です。頂いたサポートは書籍代に変わります。