見出し画像

カミツキガメがいる湖で練習したオリンピック選手:東京五輪日記 8.9

 五輪が終わってすぐ、今日からJリーグ再開。オリンピックの余韻に浸る間もなく日常生活が戻ってきた感じです。

 今日はもう少し東京五輪について。外国メディアがどう東京五輪を報じていたかを書いてみようと思います。

『ワシントンポスト』で振り返る東京五輪

 外国メディアと言っても、仕事の関係で自腹でオンライン購読している『ワシントンポスト』だけですが。

 アメリカには、USAトゥデイを除き、日本のような「全国紙」がありません。有名な『ニューヨークタイムズ』はニューヨークのローカル紙ですし、『ワシントンポスト』もワシントンのローカル紙です。

 ただ『ワシントンポスト』は、土地柄もあり、非常にクオリティの高い記事が載ります。特に、社説の反対側にある、当代きっての評論家や政治家が投稿するOP-ED欄(社説(editorial)の反対側(opposite)に載る論考記事なのでOP-EDと呼ばれます)は、英語圏の論説のトレンドを抑える上で必読です。

 そして『ワシントンポスト』は全般的に英語も難しい。『ジャパンタイムズ』とは言うまでもなく比較になりませんし、『ニューヨークタイムズ』と比べても一段難しいです。私の仕事は日常的に英語を使うのですが、『ワシントンポスト』の論説記事を辞書を一切使わずに読み通すのは至難の業です。

 そんな『ワシントンポスト』が東京五輪をどう報じたかを簡単に振り返ってみます。(リンクは有料購読者でないと全部は読めないかもしれません)

東京五輪に懐疑的な意見

 まず、大会前には、やはり五輪開催の是非について議論が戦わされてました。

 例えばEugene Robinsonと言うレギュラーコラムニストは、開幕前の7月19日に、「オリンピックは始まってもいないが、既にアスタリスクが付いている」という懐疑的な論考を書いています。ここで言うアスタリスクとは、「普通の大会ではない」という注釈を付けるべき、と言う意味です。

・数千人ものアスリート、コーチ、トレーナー、支援要員を、グローバルパンデミックのさなかに、世界中から、最もワクチン接種が進んでいない国(原文ママ)に集めることの難しさ、そしておそらくは狂気は、既に明らかになっている。
・アメリカ選手団の中にも、既に陽性者が出ており、隔離されている。南アフリカなど他国の選手にも陽性者が出ている。他国の選手たちのワクチン接種率はアメリカ選手団の接種率よりも低いであろう。米国選手団に陽性例が出ていることはウォーニングサインと見なすべきだ。
・東京五輪では、もはや焦点は競技のクオリティではなく、選手村での破滅的な感染拡大や日本国内での危険な程度の増加を防ぐこととなってしまっている。
・コロナ禍の五輪は中止すべきだった。しかし今や手遅れだ。世界は、勝利の興奮や敗北の苦しみを目の当たりにするだけでなく、毎日行われるコロナウイルスの感染テストの結果を知らされることになる。そして、今年の五輪は、常に「アスタリスク」を付けた形で語られることになるだろう。


五輪は常に与えられた環境でベストを尽くすもの

 これに対して、ベテランスポーツ記者のジョン・ベーコン氏が「東京五輪にはアスタリスクを付すべきか?:そうではない理由」と題する反論記事を書いています。

・もしコロナウイルスが世界のトップアスリートがベストの競技をするのを妨げ、あるいは全くベストとはほど遠い競技となってしまったとすれば、東京五輪は(訳者追加:トップレベルの競技会としての)基準を満たしたと言えるのか?
・もし答えが「ノー」だとするなら、次のことを問いたい。「その基準を満たした五輪はこれまでにあったのか?」と。実際にはそんな五輪はなかったのに。
・確かに、コロナウイルスによる延期でほとんどのアスリートが困難に直面している。去年にピークを合わせていたアスリートもいる。トレーニングのスケジュールは狂い、トップフォームを維持する上で多大の困難に直面している。フィリピンのウエイトリフティング選手のヒディリン・ディアズは台所でスクワットをしなければならなくなっている。キューバのレスリング選手のダニエル・グレゴリヒは自宅の屋上でトレーニングしている。レバノンの射撃選手のレイ・バシルは駐車場で練習している。
・残念なことであるが、途上国のアスリートにとってはこうした形でのトレーニングの制約はいつものことである。しかし今年について言えば、裕福な国のアスリートもトレーニングの制約に直面している。アメリカの水泳選手であるケイティ・レデッキーとシモーネ・マヌエルはコーチの友人の自宅にある25mプールで練習している。2016年に2つの金メダルを獲得したリリー・キングは、カミツキガメがいる湖で練習している。
・そして五輪は常に最善の環境で最高の競技を行ってきたという前提は完全に間違っている。1916年の五輪は第一次世界大戦により中止され、スペイン風邪の流行直後に行われた1920年アントワープ五輪には多くの最高のアスリートたちが参加しなかった。
・1940年と1944年の五輪は第二次世界大戦で中止され、1948年のロンドン五輪は12年ぶりの五輪となった。多くのトップクラスのアスリートたちが戦死ないしは負傷し、また最高の競技をする準備もない中で開催されたロンドン五輪の結果にはアスタリスクを付すべきなのだろうか?
・1980年のモスクワ五輪は約60カ国がボイコットをし、1984年のロサンゼルス五輪には多くの東側諸国がボイコットした。このロス五輪では、米国の体操選手、メアリー・ルー・レットンはソ連の選手が不在の中で5つのメダルを獲得している。そのことは、『スポーツ・イラストレイテッド』誌が、彼女に「Sportswoman of the year」を授与する上で何の妨げにならなかった。
・オリンピックは、これまでも災害、洪水、基金、世界戦争、内戦、その他の悲劇的な出来事の後ないしその最中に開かれてきたのであり、最高の環境で開かれたことはない。五輪とは、その環境の中でベストを尽くすものなのである。


制約の中でベストを尽くしたアスリートたち

 最後に、この記事に出てきた選手の結果を見てみましょう。

  ヒディリン・ディアズ(フィリピン):重量挙げ女子55キロで金メダル

  ダニエル・グレゴリヒ・エチェバリア(キューバ): レスリング男子グレコローマンスタイル87kg級で9位

  レイ・バシル(レバノン):射撃女子トラップ個人で21位
  ケイティ・レデッキー(アメリカ):水泳女子1500m自由形、女子800m自由形で金メダル。女子400m自由形、女子800mリレーで銀メダル。
  シモーネ・マヌエル(アメリカ):水泳女子400mリレーで銅メダル
  リリー・キング(アメリカ):水泳女子100m平泳ぎで銅メダル、女子200m平泳ぎ で 銀メダル、女子400mメドレーリレーで銀メダル

 

 与えられた環境の中でベストを尽くしたアスリートに、心からの拍手を送ります。