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「時間を操れ」:プレー解剖 パナソニックワイルドナイツ対キヤノンイーグルス(5月8日)<2>

 5月8日のラグビートップリーグプレーオフトーナメント準々決勝、パナソニックワイルドナイツ対キヤノンイーグルス戦。ブレイクダウンに代表されるボールロストを見ても、キックを見ても、得点機会をスコアに結びつける力でもパナソニックが優位に立ち、32-17で勝利した。

 しかしキヤノンも健闘し、後半15分頃の福岡堅樹のトライがなければ試合はどうなっていたかわからない。

 そういう試合展開になったのは、キヤノンが創意あふれるアタックで地上戦で前進できていたからだ。

 今回はキヤノンの攻撃を詳しく見てみよう。

 もともとキヤノンの攻撃は見ていておもしろく、これまでも両ウイングを同一サイドに移動させ、田村優の判断のもとでフルバックと合わせたコンビネーションでディフェンスを抜いていく攻撃が基本だった。この試合ではその進化系が披露されている。

キヤノンの46分のトライ:時間的シンクロ攻撃

 まずは20-10に迫ることになったキヤノンの46分の攻撃。

 まずパナソニックボールのラインアウトがノットストレートになって得たキヤノンボールスクラム。場所は敵陣10mライン、左タッチラインから10m入ったところ。この時点ではバックスはオーソドックスなアタックラインに並んでいる。

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 ここからキヤノンはナンバーエイトのマフィがボールを持ち出す。ディフェンスに8単の形を見せてすぐに右にいる10番田村優にパス。パスはそのまま素直に12番の南橋にパス。南橋の右側にいる13番クリエルは南橋がクラッシュしたときにすぐにサポートできる距離を取って並走する。

 そしてこの時、左サイドからは11番マレーが、後方からは15番小倉順平が右にスライドしながら走りこんでいる。

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 動きがあるのはここからだ。クリエルを従えた南橋はそのままクラッシュするかと見せかけて後ろにパスをする。

 普通だったらここは無人だが、一瞬前に南橋にパスをした田村がループして走りこんできていた。

 この段階でパナソニックはディフェンスが崩れてしまっている。南橋とクリエルがラックを作ると予測していたので、スクラムハーフの内田を含めた5人が南橋に引きつけられていたからだ。

 つまりキヤノンは、この瞬間に2人で5人を拘束したことになる。その分、キヤノンから見た右サイドが3対2でキヤノンが数的優勢(オーバーラップ)に立つ。この時、左サイドからマレーが走りこんできており、パナソニックディフェンスの福岡はマレーをノミネートしてディフェンスに向かう。

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 田村はマレーに福岡が向かっているのを見て取って、マレーを飛ばしてパス。そこには15番の小倉順平が走りこんできていた。

 こうなるとパナソニック15番野口が上がってきて小倉に向かわなければならない。福岡も、マレーが飛ばされたことに気づいてコースを修正して小倉にタックルに向かう。

 しかし小倉は、福岡のタックルを受ける寸前に裏にキックする。この瞬間、野口が上がってきているからパナソニックディフェンスラインの背後は無人になっていた。ボールは無人のフィールドを転がり、それをキヤノンのマレーとボンドが追う。そのままインゴールには飛び込めなかったが、インゴール目前で作られたラックから田村がボールを持ちだし、トライに持っていった。

 田村のループ、左からのマレーの移動、フルバック小倉のライン参加を完璧なタイミングで同調させてのアタックであり、それが実を結んだトライだった。

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キヤノン55分の攻撃:内のスペースの利用

 次にキヤノンの55分の攻撃。まず自陣10mライン左サイドでのラインアウト。この時は4人しか並ばないショートラインアウト。

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 キヤノンのスローワーは、4人の誰にも投げず、ロングスローを放る。そこに走りこんできたのは4番サウマキアマナキ。そのままトップスピードでボールをキャッチしてゲインした上でラックを形成する。

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 そしてそのラックから素早く左にパスアウト。ラックから少し開いた場所に走りこんできたのはやはりラインアウトに並んでいなかったナンバーエイトのマフィ。マフィもトップスピードでボールをキャッチする。マフィがトップスピードで突っ込んでくるとなかなか止められないので、パナソニックディフェンスがマフィにタックルするために飛び出してくる。

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 しかしボールをキャッチしたマフィはクラッシュしなかった。ディフェンスを引きつけておいて内側にパス。内側のスペースには今度は13番のクリエルが走りこんできていて、やはりトップスピードでパス。クリエルはクラッシュするが、マフィに気を取られてディフェンスラインが乱れていたので、クリエルは押し込んでラックを形成。

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 ここから素早くパスアウトして今度は田村がディフェンスの裏にキックする。この段階でまだパナソニックのディフェンスは崩れていたし、キックも22mラインの手前、フェアキャッチができない場所に落ちた。しかし少し長かった。パナソニック側がキャッチ、すぐ後ろにいた福岡がパスを受ける。

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 福岡はキヤノンのチェイサーを裏返す形で躱し、スペースを突破して試合の流れを決定づける55分のトライを決める。

 その意味で、キヤノンにとっては痛い結果につながった攻撃だったが、福岡にパスが行かず、ラックになっていたらキヤノンとしては決定的なチャンスになっていた。事実、パナソニックディフェンスを完全に崩していたので、この試合の勝敗を分けた紙一重の攻防だったことは間違いない。

キヤノン67分のトライ:内側のスペースを作り出しての攻撃

 3つ目はキヤノン67分のトライ。パナソニックがトライを決めたあとのキックオフ。キックオフから低い弾道のキックを左サイドに蹴ったが、これがキックパスになって23番サウマキがクリーンキャッチ。

 サウマキはそのままビッグゲインし、インゴール手前、5mライン手前でラックを作る。このラックから素早くパスアウト、9シェイプのフォワードがクラッシュしてより中央に近い位置にラックを作った。

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 そのラックからスクラムハーフ田中史朗が右にいる田村優にパス。9シェイプで一度当たって10番に出すというのはどのチームでもやっている標準的な攻撃パターン。そして田村優は右隣のフォワード杉永にパス。これはちょうど10シェイプの位置で、杉永は4番サウマキアマナキとラックを形成する。ここまではスタンダードな攻撃。

67分

 このラック。左サイドの9シェイプの位置にフォワード3人が並んでいる(図には入れていないが右サイドには12番南橋と15番小倉が並んでいる)。田中史朗はこの9シェイプのフォワードにパス。

 この3人はクラッシュするコースを取って固まって走る。実はこの時、9シェイプの裏、やや外目に立っていた田村優が内側に走りこんで来ていた。

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 ボールを受けた9シェイプのフォワードは、クラッシュすると見せかけて右に走りこんできた田村にパス。

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 思わぬところに現れた田村に対し、パナソニックは2人がタックルに行く。

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この時、田村の右側に、一瞬前まで元々のラックの右側に並んでいたはずの南橋が走りこんできている。つまり移動攻撃だ。田村はこの南橋にパス。

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 この段階でパナソニックのディフェンスはノミネートがぐしゃぐしゃになり、崩されてしまっている。最初の9シェイプのフォワードに引きつけられ、さらに田村にも2人がディフェンスに入ってしまっている。

 その結果、南橋の正面が空いた。

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南橋はこのスペースを突破。見事にトライに結びつけている。

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 しかもここにいるのは南橋だけではない。図には入れていないが15番の小倉も走りこんできている。

内側のスペースを利用するキヤノン戦術

 この55分の攻撃と67分の攻撃に共通することがある。ラックを作り、そこから少し離れたところにフォワードを走りこませてディフェンダーを引きつけた上で、元々のラックとフォワードの間のスペースにバックスを走りこませることだ。

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「時間を操る」攻撃とマフィ・小倉加入の効果

 ショートパスでもなく、ロングパスでもない。中距離のパスでディフェンスの「目」と「重心」をずらした上で、逆に内のスペースを突く攻撃だ。

 現代のディフェンスシステムでは、ラックの一番近くに立つディフェンダーをピラー、その次に立つディフェンダーをポストと呼ぶが、この2人を外に引きつけるために、少し離れたところからフォワードを突進させ、ピラー、ポストが動かされたあとに生まれるスペース、あるいはスペースがなくても2人の重心の逆を突くようにバックスを走りこませる攻撃となっている(重心の逆を突く、というと風間八宏のサッカー理論を思い出すが)。

 この攻撃を行うためには、時間的なシンクロが重要になってくる。最初にボールを受けるフォワードにしても、返されたボールを内で受けるバックスにしても、トップスピードでないと突破力が減殺されてしまうからだ。

 最初の移動攻撃を含め、このキヤノンの創意あふれる攻撃には、「時間を操る」ことが必須要件だといえる。全員の動きがぴったり同調して始めて、ディフェンスにカオスを作り出すことができる。

 それが上手くいけば、非常に高度な攻撃が実現する。この点で、小倉とマフィと言う2つの新戦力の効果は大きい。突破力を持つマフィが加わったことで、マフィを使うオプションの「裏」となるバックスの攻撃オプションの効果が増した。

 小倉順平がチームにフィットしたことで、田村と小倉の2つの拠点から攻撃を組み立てることができるようになった。これは、攻撃の拠点が2つあると言うだけでなく、田村がクラッシュしてラックの中に巻き込まれていても、多彩な攻撃を行うことができると言うことだ。実際、田村が迷わずラックに飛び込まなければ、46分のトライを取ることはできなかった。

 そう考えると、キヤノンはもっと強くなる伸びしろがある。智将、沢木敬介が繰り出すクリエイティブなラグビーをさらに熟成させた姿を、来シーズンは見ることができるだろう。