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ラグビー戦術の歩み<4>:ワイドライン戦法(3)

 1990年代後半、低迷を続けた早稲田大学。その中で乾坤一擲を期して考案したワイドライン戦法。

 しかし、一年目の1998年シーズンは、週刊誌のスキャンダル報道の影響を受けて出遅れたこともあり、結果は出ませんでした。

対抗戦では結果出ず

 対抗戦では筑波大学に29-29の引き分け、日体大に17-45の敗北。早慶戦は35-21で勝利するものの早明戦は24-27で惜敗。大学選手権は準決勝まで進むものの当時全盛期だった関東学院に26-53で大敗しました。

 大学選手権直後の雰囲気をラグビーライターの大友信彦さんはこう書き残しています。

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『ナンバー』1999年1月28日号。大友信彦「早稲田ラグビーはどこへ」。

 極端に広く深いBKライン。長いパスを駆使した揺さぶり。時代遅れにも見える戦法をあえて選択したのは、スタミナ勝負以外に勝つ方法はないと開き直ったからだ。

 「強い相手に順当に負けたんじゃ面白くない」と日比野は言う。「最近のワセダは、早明戦まで無傷でいきたいとか、守りに入ってチマチマしたラグビーに陥っていた。でも僕は、可能性は低くても強い相手に勝つ方法を追求したい。マラソンならスタートから思い切り飛ばして、残り1000mでバテて10位に落ちても仕方ないじゃないか、ということです」

日本選手権、トヨタ自動車戦

当時はトップリーグ発足前。

大学選手権の後にも日本選手権として大学と社会人との試合がありました。それ以前は大学選手権優勝チームと社会人選手権優勝チームの一発勝負でしたが、この年は両方のベスト4が対戦する形でした。そのため、大学選手権ベスト4の早稲田にも日本選手権でのチャンスがありました。

 相手は社会人選手権で優勝したトヨタ自動車。スタンドオフ広瀬圭司やウイングのツイドラキ、オトなど日本代表を擁する押しも押されぬ強豪です。

 この試合、早稲田は思わぬ健闘を見せます。前半は7-28。この試合、見に行っていましたが、早稲田は、今でも覚えているほどの凄まじい闘いを見せてくれました。特に前半は映像でもう一度見たいとずっと思っています。

大敗の中で見せた可能性

 とても印象の強かった試合だったので、この試合が載っている『ラグビーマガジン』は今でも保存してあります。

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『ラグビーマガジン』1999年4月号。村上晃一「ミスマッチじゃない」。
 社会人大会と、大学選手権のベスト4同士が戦うシステムになった新日本選手権1回戦。4試合中100点ゲームが2試合、すべてが大差で社会人チームの勝利という結果に終わったが、それでも光差し込む試合はあった。社会人王者のトヨタに挑んだワセダ。速く、ワイドにボールを散らし、相手を振り回す戦いを徹底した。守っては、足首に刺さり続けた。最終的なスコアは7-101でも、確かにトヨタを翻弄した時間があった。15人の意思が通じ合い、やろうとしていることが、伝わってきた。ミスマッチじゃない100点ゲームだってある。

(中略)

 学生レベルでも小柄な早稲田は、「大きな相手に、いかに戦うか」をテーマにチーム強化を続けてきた。めまぐるしいテンポの攻撃は、ただ闇雲に速いわけじゃない。この日の攻撃にも、いったんブラインド・サイドをついてから大きくオープン展開する意思統一された動き、ビッグ・タックルを受けないための小刻みなステップ、低い姿勢で相手と接触した瞬間に股下からボールを出す通称「カメ・ラック」など、早稲田が長い歳月をかけて創出した知恵と工夫がちりばめられていた。だから、トヨタは慌てたのである。「本当に速かったよ。あのままなら負けるところだった」(トヨタWTBツイドラキ)

(中略)

 力の差は歴然としていた。しかし、トヨタが崩れそうな時間帯も確かにあった。大きな相手に挑戦していく早稲田の方向性は間違っていない。社会人王者を倒すには、未完だったのである。

(中略)

 大学対社会人。一見無理な対決が存続しているのは、格上のチームにいかに勝つかを考えることが、国際舞台では体格のハンディに苦しむ日本ラグビーのプラスになると思われているからに他ならない。
 
 早稲田の乾坤一擲の挑戦は、勝利を目標に自分たちの信じるスタイルを貫いた点で立派だった。

 後半冒頭のトライチャンスを早稲田がインゴール寸前でノックオンし、リスタートでトライを取られてからバランスが崩れ、後半は0-73となり最終スコアは7-101とすさまじいワンサイドゲームになってしまいますが、この試合で早稲田が見せたのは、ひたむきな勝利への執念だけでなく、ワイドライン戦法の可能性でもありました。

 後半、トヨタがなりふり構わずフォワードの重量で蹂躙しようとするまで、圧倒的に格上の相手に対し、ワイドライン戦法は確かに機能していたのです。


(続く)