横浜の歓喜。忘れられない日。

一年前の今日はラグビーの日本対スコットランド戦があった日だ。日本の決勝トーナメント進出を賭けた大一番。

しかし、あいにくの台風の直撃。前日の試合は中止になった。イングランド対フランス戦、チケット買っていたが残念ながら行けず。



台風19号の暴力と、人間の力

台風19号は容赦なく雨を叩きつけてきた。

武蔵小杉周辺の浸水。鶴見川もあふれて横浜国際競技場の調整池に水が流入。

しかし、大会委員会やボランティアたちの努力でなんとか開催が実現。JR東日本も、スタジアムへのアクセスルートの中核となる横浜線の安全確認、運行開始をまず最初に行うというワザを見せた。横浜線につながるアクセスルートの東海道新幹線、東横線も異常なし。観客は、ほぼトラブルなくスタジアムに行くことができた。

運営を担う責任者のアラン・ギルピンは、試合後に「今日の試合は、日本人でなければ開催できなかった」と賛辞を述べたという。

史上最大の決戦

自分は、それなりに長くスポーツを見てきたし、いろいろな場面に居合わせてきた。

1989年パリーグペナントレース、西武対近鉄ダブルヘッダーでのブライアントの4打数連続ホームラン。

1992年日本シリーズ第七戦、石井丈裕対岡林洋一の投手戦。

1998年長野五輪ジャンプ個人の船木の金、原田の銅。

1998年夏の甲子園決勝戦の松坂大輔のノーヒットノーラン。

2000年のJリーグ最終節、マリノスが逆転優勝を決めた横浜Fマリノス対JEFユナイテッド。

西武ライオンズが16年ぶりに日本一になった2008年日本シリーズ第七戦。


それでも、この日ほどの精神の高揚感を感じた試合はなかった。1997年のジョホールでのイラン戦も決戦だったが、この日の緊張感はそれ以上だった。

この興奮そのものを楽しみたかったので、この日はカメラは持って行かなかった。スマホの写真さえ撮らなかった。「撮影者」という第三者的な感覚に侵入されたくなかったからだ。


最高の試合の思い出

席はカテゴリーD。インゴール裏。メインスタンドから見て右側。

この日のトライの7本のうち、5本が目の前だった。ラスト5分でのスコットランドボール5mスクラムも文字通り目の前だった。

カメラ持っていたらさぞいい写真が撮れただろう。けれど、後悔はしていない。「ニッポン!」と叫び、拳を突き上げてトライの時に雄叫びを上げる、ということは、ファインダー覗きながらではできなかったから。


キックオフ前の黙祷。

君が代と、Flower of Scotland。

残り5分、長かった。「5分が長い!」と叫んだ。

カウントダウンは、20秒前から始めた。多分席の周りでは一番早かったと思う。

ノーサイドの瞬間、立ってられなくなって、しゃがみ込みながら嗚咽した。これまで何度も味わってきた悔しい思いが蘇ってきて、立ってられなくなったんだ。

そのまま泣いていたら前の列のイングランドとウェールズのサポーターが抱え起こしてくれた。彼らはぼくを抱き起こし、ハグしながら、congratulation!と声をかけてくれた。

その歓喜の時、歓声の合間に、どこからともなく聞こえてくるバグパイプの音。Flower of ScotlandやScotland the Brave。

このときを忘れることは、一生ないだろう。



しばらく余韻を楽しんでいたら、寂しげに肩を落として帰るスコットランドのサポーターが、娘にこの旗を渡した。

エジンバラ。1872年。

初めてのラグビーのテストマッチ、イングランド対スコットランド戦が行われた年と場所だ。



ラグビーを。スポーツを愛してきて本当によかった。