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Blake Babies Story -無垢と経験の歌-

Blake Babiesというバンドが居たことは随分昔から知っていたけれど聴く機会がないまま年を取った2023年10月頃、なんとなくサブスクで聴いてみたアルバム「Earwig」に魅了され、猛スピードで音源を集め(安かったので)、英文インタビューやらウィリアム・ブレイクの詩集なども読んだうえでこの記事を書きました。リアルタイムで聴いてきたわけでもないので事実誤認など俄かならではの至らぬ点もあるかもしれませんが、この記事でBlake Babiesの魅力を知って頂けると本望です。


Blake Babies Biography


Blake Babiesは後にソロミュージシャンとしてメジャーシーンで活躍することとなるジュリアナ・ハットフィールド(Vo,G,Ba)、初期Lemonheadsのドラマーでもあったジョン・P・ストローム(G,Vo)、ジョンの恋人でもあったフレダ・ボナー(Dr)というボストンのバークレー音楽大学に通う3人の学生によって1986年に結成された。バンド名の名付け親はなんと詩人のアレン・ギンズバーグで由来はイギリスの詩人/画家のウィリアム・ブレイクから取られている。

地道なライブでの下積みよりもカレッジラジオでかかった方が知名度を上げるには手っ取り早いという理由で数回のライブを経験した後、1987年に1stアルバム「Nicely Nicely」を自主制作でリリースするとその目論見は当たりボストンで話題のインディーバンドとして注目を浴びるようになる。若く容姿端麗で頭脳明晰な3人ということもあり厄介なファンから好奇の目に晒されることにもなり2人の女性メンバーを守るためにジョンはファンに睨みを利かせていて気が休まらなかったとも語っている。

1989年にはUKのレーベルUtilityよりLemonheadsのイヴァン・ダンドゥがベーシストとして全面参加したミニアルバム「Slow Learner」をリリース。同年ノースカロライナのインディーレーベルMammothと契約を交わし2ndアルバム「Earwig」をリリースし、翌1990年には3rdアルバム「sunburn」をリリース。イギリスでのツアーなども行い順調にキャリアを積みメジャーレーベルとの契約も近いと思われたが、バンド内ではレーベルから満足なサポートを得ないまま行われるツアーによる疲弊と悪化していくメンバー間の軋轢、ジュリアナのソロ転向への野心と深刻な健康問題、ジョンとフレダの恋愛関係の問題とホームシック、音楽的な行き詰まりなど様々な問題を抱えており1991年にリリースされたEP「Rosy Jack World」が最後の音源となり1992年に正式に解散することとなる。

解散後、ジュリアナはソロに転向。当時恋人関係だったイヴァン・ダンドゥ率いるLemonheadsのアルバムにも参加し知名度を高め、メジャーレーベルとの契約を勝ち取りプロとしてのキャリアを積んでいく。一方のジョンとフレダはAntennaというバンドを結成しMammoth Recordsから数枚のアルバムをリリースしていたが、Blake Babiesとして一緒に目指していたメジャーレーベルとの契約をあっさり一人の力で実現し順調にプロとして活動しているジュリアナの姿を見るのは非常に辛かったと後年語っている。

ミュージシャンとして明暗が分かれたかのように見えた3人だったが、時間の経過と人生経験を積むことによって徐々に寛容さと深い友情を取り戻すようになり1999年に再結成。ライブを数回行い、2001年にはアルバム「God Bless the Blake Babies」をリリースした。頻繁に活動しているわけではないものの良好な関係を維持したまま現在もBlake Babies名義でのライブをマイペースな形で行ったりEarwigデモ集をリリースしたりと往年のファンや新規のファンを静かに歓喜させている。

私たち3人の音楽的な相性は素晴らしくユニークで、私たちが作った音楽を本当に誇りに思っている。あの頃の私は、きっと気分屋で恐ろしかったと思う。ジョンとフレダが寛容で心優しく接してくれたことに感謝している。

Juliana Hatfield

レダやジュリアナと一緒に音楽を演奏していると、この素晴らしい人たちとのつながりがとても身近で心地よく感じられる。一緒に音楽を演奏するのは気分がいいし、ありがたいことに今でもかなりいい音がする。

John P Strohm

私たちがどれだけめちゃくちゃで、それでも私たちなりに努力して美しい曲を作ろうとしていたかを思い返すと、私たち全員に優しさを感じるわ。私たちは若くて間抜けで、傷ついていたけれど、音楽が大切だと本当に信じていた。

Freda Boner

The Blake Babies: Songs of Innocence… and Bad Experiences Redeemed

Blake Babies Discography

Nicely,Nicely (1987 Chew Bud)

名目上は1stアルバムということになっているが、ライブ音源が2曲入ってたりする変則的な内容。Seth Whiteなる人物がベーシストとして参加している4人編成での録音でLemonheadsのイヴァンもゲストボーカルとして参加している。その後の作品と比べると粗削りでアレンジの詰めも甘く録音もデモのような質感だがこれはこれで活動初期の記録として貴重。

ラモーンズやX(LA),ReplacementsなどのパンクロックやGo-Go's,初期Banglesなどのガールズバンド,60年代のガレージなどからの影響を強く感じさせるシンプルでパンキッシュな内容だが、後の作品で再演される「Rain」の初期バージョン「Better’n You」などフォークロック的な要素もあり。


Slow Learner (1989 Utility Records)

ビリーブラッグのリリースで知られるUKのUtilityからのリリースされた7曲入りEP。録音は88年。Lemonheadsのイヴァンがベーシスト&だるそうなボーカルとして全面参加。ワンアイデアで突っ走る感じだった前作と比べて演奏力・歌唱力・作曲・アレンジ能力が大幅にUPしていてイントロやブレイクなどでの一工夫がよいフックとなっている。良い意味での学生気分のような楽天性と焦燥感が青春を感じさせる。

Blake Babiesの楽曲の中で最もキャッチーなギターポップ「Lament」や再演されたフォークロックナンバー「Rain」などはバンドの代表曲と言っても差し支えない普遍性がある。次作の「Earwig」でこのEPの全曲がそのまま収録されているので熱心なファン以外は買う必要はないかもしれないが、オリジナルの曲順で聴くと曲の聴こえ方も変わるので私のような信者は買ったほうがよいかもしれない。

イヴァンを加えた4人編成で行われたSlow Learner期のライブ動画がフルで残っていて音はそれほどよくないがUSインディーのアマチュアリズム全開で素晴らしいので必見。会場はボストンパンクレジェンドWilly Alexanderが歌にしたことでも有名なThe Rat!!!


Earwig (1989 Mammoth Records)

名目上は2ndアルバムだが上記「Slow Learner」全曲+88年の録音2曲、89年の録音が6曲、合わせて全15曲収録という変則的な選曲のアルバム。89年録音の楽曲ではジュリアナがベースを担当しているのだが、ベースライン、音色、録音、フレダのドラムとの相性、すべてが非常に素晴らしい。楽曲の方も冒頭の「Cesspool」などミドルテンポの楽曲の出来がよくサウンドにも重厚感が増していてバンドとしての幅が広がっている。

ジュリアナのあどけなく爽やかな唱法とパワフルでコブシの効いたシャウトを使い分けるヴォーカルスタイルにも安定感が増しているし、ジョンPの歌の邪魔にならない無駄のないツボを押さえたリードギターなど聴きどころは多い。初めてBlake Babiesを聴くならこのアルバムをお薦めしたい。Stoogesのカバーもあり。


Sunburn (1990 Mammoth Records)

3枚目にしてやっと全曲新録で3人編成での録音。グランジ/オルタナティヴロックブームという時流に乗ってかノイジーなギターやヘヴィなサウンドの曲も増えているが、録音やミックス自体は80年代を引きずった感じの微妙なメジャー感があるので同時代のNirvanaやDinosaur Jr、Sonic Youthなどと比べるとヒリついた感覚は薄く、最近の若手芸人よりも身体を張ったMVが衝撃的な「out there」や爽やかで切ない「I'll Take Anything」などポップな楽曲が逆に目立つ。

このアルバムではジョンPがリードボーカルを担当する「Girl In The Box」「Train」という2曲が収録されているが、当時再評価の波が押し寄せていたBig Starからの影響を強く感じさせるのも90年代初頭ならでは。ジュリアナの作曲能力やベースラインは相変わらず冴えていて、ボーカリストとしてもあざとくなったりクールになったり荒ぶったりと情緒不安定ながらも表現力が豊かでソロミュージシャンとしても充分やっていけそうなポテンシャルの高さを感じざるを得ない。


Rosy Jack World (1991 Mammoth Records)

バンドとしての最後のリリースとなったEP。何故かヘンリーロリンズが参加している。悪くはないがやや停滞感のあるオリジナル曲よりもGlass Roots「Temptation Eyes」とDinosaur Jr「Severed Lips」という2曲のカバーの方が出来が良い。「Temptation Eyes」は彼女らのフェイバリットバンドでもあるReplacementsもカバーしているので聴き比べると面白いかもしれない。

ラストにはジュリアナ一人の弾き語りで演奏される「Nirvana」が収録されているがバンドの終焉を感じさせて寂しさがつのる。後にジュリアナ1stソロアルバムで「Nirvana」がバンド編成で再演されているのも皮肉なものだ。全体的に解散前のバンド特有の暗いムードのあるEPだが、Jマスシスはよいソングライターだ!と気づかせてくれるEPでもある。


Innocence And Experience (1993 Mammoth Records)

解散後にリリースされたベストアルバム。単なる寄せ集めではなくデモや未発表曲、ニールヤングのカバー(Live)などこのアルバムでしか聴けない曲も多いので買ったほうがよい。

アルバムタイトルはバンド名の由来となったウィリアム・ブレイクの詩「songs of Innocence and Experience (邦題:無垢と経験の歌)」からの引用。ライナーノーツには貴重な写真やイラストなどと共にウィリアム・ブレイクの詩「The Ecchoing Green (邦題:こだまが原)」も掲載されているので邦訳や内容が知りたい方はブレイクの詩集なども手に取ってみるとよいかもしれない。


God Bless The Blake Babies (2001 Zoe Records)

再結成アルバム。自分の手元にはなくサブスクで聴いただけなので現時点ではあまり聴き込めてはいない。パッと聴いた感じはアコースティックギターを使用した落ち着いたフォークロック調の楽曲が増えている。アンジーなどのリリースで知られるメルダックから日本盤が出ているが、最近落札に失敗した。


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