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あそこのあれ

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あの店ではこの料理が美味いよね。という趣旨のグルメコラムです。 簡単に美味しい店を紹介すると思って読んだら怪我します。
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江ぐち

「江ぐち」の話しをしよう。 江ぐちは見ての通り「江」に平仮名の「ぐち」で表記するのが正しい。 三鷹駅からすぐの雑居ビルの地下にある「中華そば江ぐち」。 私にとっては、特別なラーメン屋である。 ちなみにこの「江ぐち」は小説にもなっているし、泉昌之氏の漫画にも登場している。 この江ぐちであるが、私は中学時代から食べ続けている。 当時の江ぐちは、この雑居ビルではなく同じ場所にあった路面のボロ家で営業していた。 三鷹市の再開発プロジェクトがあり、三鷹駅前の一帯が立て替えられ「江ぐち」

大将、ありがとうございました。

大好きな大将が天国に行ってしまった。 私に寿司の楽しさ、美しさ、味わい方を教えてくれた恩人だった。 あのセンスと技術で、どれだけの人を幸せにしたのだろう。 初めて太平寿しに行ったのは、かれこれ15〜6年前だろうか。 まだ野々市が野々市市というややこしい都市名になる前のことだった。 東京で暮らしていた私の目には、住宅地に佇む普通のお寿司屋さん。 それが太平寿しの最初の印象だった。 そう思ったのはきっと私だけではあるまい。 連れてきてくれた地元の友人、吉田さん曰く、とにかく美味い

ハシでキレるトンカツ屋

あれは、ものすごく暑い夏の午後だった。  原宿で少し遅めのランチ。 あまりにも暑くて、冷やし中華でも食べれば良かったのだが、私は冷やし中華が苦手なのだ。 なにしろ、あの甘ったるくて酸っぱいタレがダメなのだ。 そして必ず食った瞬間に「ゲホゲホ!」と咽る。 何かで読んだのだが、酢は女性よりも男性の方が咽るのだそうだ。 酸辣湯麺が女性に人気の理由がわかる。  ランチを探しながら表参道を上の方、伊藤病院のあたりまで来てしまい、もうここまで来たからには、あそこのトンカツだろうと

麻布十番の面影

 私は大江戸線麻布十番駅が開通するだいぶ前から、六本木ヒルズが完成した数年後まで麻布十番に住んでいた。その期間は恐らく十数年だと思う。  最初に住んでいたマンションは、マハラジャの向かいだった。 ご存知の通り、駅が出来るまで麻布十番は陸の孤島と言われていた。 近隣駅と言えば六本木か広尾、そのどちらから歩いたとしても、まあまあの距離がある。坂道も多いので歩くのは億劫になる。 とくに何かあるわけでもないのに、とりあえず何でも揃っている商店街。 多様性を受け入れ、様々な人々が暮ら

高架下の焼きそば

高架下の立ち食い蕎麦屋には、いつもドラマがある。 この日の店員さんの構成は、 ・メガネ ・福建省出身 ・リーダー格の男、 ・不器用な女子、 ・初老の寡黙男 ・コックコート 狭い店内なのに、店員の数は多い。 それだけ繁盛店ということだ。 蒸し暑いカウンターの中、 焼そばを作っているのは福建省出身の中国人青年。 その横でリーダー格の男が唐突に大きな声で、 「福建省出身者には、俺の気持ちは分からねぇんだろうな~」と言い始めた。 お客たちは全く意に介せず、黙々と目の前のものを胃

小浜のわんたんめん

 ここで言う「小浜」は、合衆国大統領のオバマさんでは無く、福井県の小浜でもない。葉山から134号線を江ノ島方面に走って、日影茶屋の少し手前あたりに位置するラーメン屋さんの名前が「小浜」なのである。 話は私の葉山への移住まで遡る。  私は2007年に、それまで住んでいた原宿から、唐突に葉山に移住することにした。  思い立ったが吉日なので、ネットで引越し屋一括見積りを頼んでみた。翌日に早速、テレビで宣伝しているような有名業者から全く聞いた事もないところまで10社以上の見積り

新宿5丁目の美味しい水餃子

 私が22〜3才の頃、まだ起業したばかりの頃のオフィスは新宿5丁目の怪しげな路地にある幼馴染の父親が占拠していたマンションの一室だった。  なぜそんなところにオフィスがあったのかと言えば、ある日その幼馴染の父親にメシをご馳走してもらう機会があり、その時に「事務所探してるんですよねぇ」みたいな事を口走ったら「ちょうどいい、新宿に俺が面倒みてるマンションがあるから、明日からそこでやれ」と言われ、確認すらさせてもらえずに、そこをオフィスにすることになったのだ。  私のオフィスの