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「この桜も今年で最後」父が植えたという桜の木を持つご夫婦の話

こんばんは。
今夜も桜ネタですみません。
ただ、この気持ちは残しておきたいので殴り書きですがお付き合いください。

家の裏、川沿いに咲く2本の桜

私が住む地域は2019年の台風19号で被災しました。当時は、いま住んでいる家を建築中、基礎が出来ていた状態。
幸いにも当時住んでいた家は停電程度の被害ですみましたが、建築中の家は川から近いこともあり、氾濫した川による被害を受けていました。

基礎のコンクリートしかない状態だったので家そのものは被害はありませんでしたが、庭やご近所、その周辺道路は「道路なのか?川なのか?」という状態。しばらく経ってからも泥やゴミ、流されてきた植物などが散乱する状態でした。

当時住んでいた家は無事、建築中の家も泥やゴミをかき出して処分、完成予定日が半年以上ズレ込むだけで済むという幸運。引っ越してきたころには穏やかな地域に戻っており、その後すぐにコロナ禍による外出制限があり、台風被害について近所の方と話す機会はほとんどなかったのです。

「家の裏に桜の木がある」というのは、引っ越してきてすぐから知っていました。コロナ禍による外出制限はありましたが、子どもたちに春を感じてもらおうと花が咲いている間も、そうではない季節もよく訪れる場所。

川の土手に2本、整備も何もされていない歩道と畑の角にそびえ立つ桜の木は、引っ越してきてから3度目の春を迎える今日も花を咲かせていました。

「今年で見納めなんですよ」

氾濫した川の整備計画があることは知っていました。家から100mも離れていない場所なので、ポストに投函されていた計画書にも目は通しています。

川の幅をひろげ、古い橋をかけ直し、土手の歩道を整備する。
という概要は理解しましたが、わが家に関係があるのは『古い橋をかけ直す際に、交通整備の対象になる場所』であることのみだったので、それ以上は詳しく読み込んでいませんでした。

桜も満開を迎えた今日。散歩と花見を兼ねて子どもたちを連れて桜の木を見に行った際、老夫婦に声をかけられました。ご主人が寂しそうに「この桜、今年で見納めなんですよ。私の父が植えたんですが……」と言い、川の整備計画が頭をよぎります。

わが家にとっては「交通整備の対象地域かー、家の出入りが面倒だなー」と呑気に思っていただけの計画。
しかし、このご主人にとっては「思い出の桜の木との別れ」である計画。

普段はお二人は遠くで暮らしており、畑や桜の木の持ち主であるご主人のお父様も現在は施設でお世話になっているのことで、訪れるのは久しいとのこと。

「綺麗なときに見納めできてよかった」と笑うご主人に、「こんなに立派に咲いているのに、もったいないですね……。」と桜の花を見上げることしか出来ない私。

一番いいときっていつだろう


ひとつの物事を決める際には、
さまざまな立場から考えていく必要があります。

誰かが喜べば誰かが悲しむことも、もちろんあります。

今回は、今後もこの地域に住むわたし達が今後も安心して暮らすために、このご主人は思い出の桜の木と別れるという選択をしてくださいました。

「うちもね、3人なのよ」
と奥さまが声をかけてくださり、私の子どもたちを優しく見つめます。
「今は大変だけど、一番かわいいときよね」
ありきたりな言葉ではありましたが、先ほどご主人の口から出た「綺麗なときに見納めできてよかった」という言葉が、より胸に刺さる一言。

「いつも。花が咲いていなくても、よく来ていて……」
小雨が降ってきたので、わが家に帰ろうと走る子どもたちが道路に飛び出す寸前に言いかけた私の言葉が、どうかご主人に届いていますように。

咲いていなくても、葉ばかりになっても。
葉も無くなってしまっても。

「綺麗なとき」ではなくても、見てる人は見ていたよ、と伝わっているといいな。




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