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手紙

ふとした瞬間
あなたを想って  手紙が書きたくなる

紙とインクの匂い  
そこにあるのは   私があなたを想った時間

便箋には  向こうがほんのすこしだけ
透けてみえるものを使おう

あなたのように
優しいひかりを感じる あたたかい色味の紙

かわいらしくて  
それでいて  強かな花もいっぱい描き添えて  
にぎやかな画にしたい



インクにはあかみを帯びた朽葉色を  

あかを 黒で濁らせただけのものではなく    
反対色で   だいじにだいじに落ち着かせた
やわらかくて  上品な色
あなたのように  正反対の色も持っている そんな色



まずは何から書こうか

便箋が空白だから   まっさらでなにもないから
自分の何かで  満たさなくてはと
書いているうちに筆が滑ってしまう
書かなくてもいいことも書いてしまいそう
手紙とはそういうものだと どこかで聞いた気がする

確かにそうだ
たとえば

あなたの言葉にすがらないと
あなたの背中を追いかけないと
私は立つことすらできない   そんなこととか


こんなことを書いたら
あなたにがっかりされてしまいそう
だってあなたは  私と違って強いもの
それはいやだなあ


でもやっぱりあなたは
こんな私の手を引いてくれるのかな
なんて    
こんなことを思ってしまうのは
あなたが優しい証明だ

あなたのおかげで強くもなれたけど
よわくなったところだって同じくらいある

手紙では    いつもは言えないことも言える
でもそれが   それのせいで    
私はいっそうよわくなるらしい
知らなかったな

あなたのおかげで
"初めて知る"  が私の中にいっぱいあるよ


私があなたにしたためた文字列からは
きっと     不在が感じられる

手紙では心しか届けられない
愛すれば愛するほど   それが悲しいけれど
心だけでも届けたい
そう思って手紙を書く

あなたを想って書く手紙
あなたのためだけに融けた時間
そんな時間が私はとてもすき

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