理学部・工学部に女性が少ない理由

これまた定期的に挙がるお題だが、意外とちゃんとまとめたものがないようなので、ここで纏めておく。


前提知識

まず、数字の違いこそあれ、これは世界的な問題であることを認識する必要がある。例えば、女性の社会進出が日本より進んでいると思われているアメリカにおいても、STEM分野の女性が少ないことは問題視されている。

ただ、アメリカが、特に家族観なんかについて、意外と保守的な国だということはそこそこ知られている。ところが、女性の国会議員割合などでかなり男女平等が進んでいる北欧諸国においても、職業選択において男女に違いがあるというの興味深い結果も出ている。

これらのデータを見ると、日本で理学部・工学部に進学する女性(以下、リケジョ)が少ないのは、日本社会が遅れているとか偏見があるとかいう単純な話ではないことが分かる。


一般的な議論

それでは、一般的にリケジョが少ない理由はどう語られているのだろうか。多いのは①ロールモデル説と②親世代の無理解である。ただ、特に②については先進国においても深刻な問題なのだとしたら、あまり説得的ではない。

また、①についても、そもそも学部選択で大学の先生なんかをどれだけ見るのかというのも疑問だ。オープン・キャンパスなんかもあるだろうが、リケジョを増やしたい今どき大学は、ここぞとばかりに女性教員を狩りだす。小保方があれだけもてはやされたのは、記憶に新しい。

あと、混同されがちな点として、そもそも女性の進学や社会進出への足枷があるという議論が混入されがちだということだ。日本も含め、多くの先進国では、少なくとも大学進学率では男女の格差はほとんどなくなっている。少なくとも、結婚・出産までの就業率も大差はない。学業成績を見ても、女性の方が成績が特に悪いということもない。もちろん、リケジョに対しての社会の問題があることは否定しないが、少なくとも女性の進学や社会進出全般に対して社会に大きな問題があるという一般論は怪しい。


遺伝・比較優位

はっきりしているのは、高校までの文理選択や、大学での学部選択において、すでに理学部・工学部を選択する女性が少ないということだ。

これは、単純に生まれつき男性の方が理数系に比較優位があるというのが大きな原因だろう。これを指摘すると、所謂STEM分野で男女に大きな差がない事が反対意見とされることが多い。

しかし、ここで重要なのは「比較優位」である。比較優位の議論は絶対優位と混同されがちだから、少し説明しよう。世の中に文系・理系の2つだけ職種があると単純化しよう。仮に、「どちらも」女性の方が優秀だとしてみよう。しかし、仮に女性の方が文系がより優秀であり、男性の理系が比較的マシであれば、女性は文系職につき、男性は理系職につくのが経済的な合理的な職業選択になる。

女性の方が情緒面が優れており、共感能力が高いと言われている。この結果、特に高齢化が進み福祉分野が拡大している先進国において、こうした分野に女性が多いことは、比較優位の観点からある程度説明できるだろう。


学習効果

しかし、遺伝だけで全てが決まっているというのは、私も乱暴な議論だと思う。ただ、教育のプロセスを考えると、この効果を増幅させているメカニズムが見えてくる。

多くの人にとって、勉強は嫌なものである。勉強なんかはなるべく簡単にすませて、手っ取り早く成績を上げたいというのが人情だろう。人間の性向として、楽に成果が出せる分野に力を入れることは、ありがちなことだ。仮に、遺伝による比較優位がそれほど大きなものでないとしても、高校までの学習はその比較優位の格差をより大きなものにしてしまう。分かりやすく言えば、国語や英語、暗記の多い歴史がより得意な女性は、これらの教科に力を入れ、よりこういった文系科目が得意になる。


人的資本論

以下では、ある程度、家庭内における男女の役割に対するステレオタイプがあることを前提とした議論になる。ただ、ここでもまた比較優位でも説明ができることは注意。

一般的に言って、理系教育は金がかかる。私立だと文系の2、3倍の授業料がかかる。しかも、レベルの高い大学だと修士課程への進学が多くなっている。そう考えると、理系進学という「投資」が割に合うものかどうかという経済合理性の話も出てくる。

特に、出産・育児の負担があり、その後も共働きでも家事負担の大きい女性にとって、理系に進学して自分のスキルを高めることが「割に合わない」投資だという事は容易に想像がつく。

この点を考えると、学習コストが比較的軽く、出産・育児でのハンデが小さい公務員やソーシャル・ワーカー、看護師などの職種を職業意識の高い女性が選ぶのは合理的だということになる。


比較優位、再び

ここでの議論は、男性が家事・育児への協力が不十分だということが前提になっている。もちろん、男女平等が進めばこの問題は緩和されるが、先進国の事例を見ても完全に解消することは無いように思える。

結局の所、ここでも家事・育児をする能力が女性の方が高いから、ということに原因がありそうだ。まず、単純に女性の方が体力がある。また、マルチ・タスクをこなす能力も女性の方が高いと言われている。


結論:女の優秀さゆえに

ここまでの結論をまとめると、女性が非STEM分野において優秀だからこそ、STEMが男性に残されているという構図が見えてくる。そして、男女平等が日本なんかよりはるかに進んでいる北欧諸国において、男女の職種が大きく異なっていることを見ると、女性の社会進出を進めても、このギャップは改善しないことが容易に想像できる。

この結論が、どれだけ受けれられるかは分からない。ただ、遺伝的な性差がある程度あり、それは女性にとっても社会にとっても必ずしも悪いことではないと理解することは重要ではないだろうか。別にSTEM分野に関わっている人間が偉い訳ではない。それなしでも、北欧諸国の様に国会議員の半分は女性、みたいな社会を作ることもできる。男性はその無能力故に、家事・育児の負担は女性が多くなりやすい。しかし、家事・育児への社会的な評価を高くすれば、それも問題ではなくなるのではないだろうか?

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