【レビュー】将棋と麻雀 頭脳戦の二刀流~49歳からの私の挑戦

総評:一将棋棋士の普通の自伝だと思っていた… 衝撃の一冊


1. 本の全体的な内容

鈴木大介九段の将棋歴や麻雀歴、将棋界の仕組みについて、
まとまって書かれている。
行間も空いたレイアウトで、本の厚みはそれ程なく、
さっくり読める内容である。
より簡潔な内容は麻雀遊戯王の動画でご自身がお話されているし、
奨励会に関わる過酷な話も、麻雀ファンの方には初耳かもしれないが、
将棋ファンにとっては、「将棋の子」などで、
既にその厳しさはご存じの方も多いと思う。

 そのため、本に関わる新規エピソードはそれほど多くないかもしれないが、
それでも衝撃を受ける一冊であった。

2: 0.3% と「新たな挑戦」

リーチが掛かっている段階で、自分がちょうど無筋を一枚押せば
聴牌しているとき、定石では通っている筋の数で
放銃率が推定できるという。
Mリーグだと、ないおトンが筋の数を卓の下で数えていたのが有名である。
(私は面倒くさがってしないが..)

放銃率にもあるように、麻雀とは確率のゲームであるが、
どんなにヤバい無筋でも、裏を返せば50%しか当たらないゲームといえる。
(流石に残り一筋を分かってて切る人はいない…)

麻雀はゲームなので、ドラの無筋を掴んでも確率論だと割り切って
勝負できるかもしれないが、
この平和な日本で、現実で0.3 %という確率に、じわじわと直面するのは、
あまりにも酷なことだと思わされる。
そして、「新たな挑戦」という言葉の重みや、帯に書いてある「真の強さ」という大袈裟に思える言葉も、この一冊を通して読むと、
腑に落ちるというか、真に迫ってくる。

3. 将棋も麻雀もメンタルゲーム

電王戦でAIが佐藤名人に2連勝した時、人間同士が指す対局の意味が
無くなるのでは、従って棋士の存在意義も無くなるのでは、
という恐れが一部には確かにあった。

だが、現状将棋界のメインスポンサーである新聞業界が縮小傾向にあるにも関わらず、将棋棋戦はabemaトーナメントや達人戦復活など、
活気を見せている。その理由は、藤井聡太八冠の影響が大きいであろうが、
やはり人間同士の揺れ動く対局模様を見たい、というのもあるのではないだろうか。

八冠奪取の局となった、永瀬前王座の一分将棋に追われて
AI評価値が大逆転する手を指してしまい、頭をかきむしった姿は、
衝撃的で、軽々しく言葉にできない。
あの粘っこい将棋を指す、永瀬前王座が、である。

実際に将棋を指していても、秒読みを読まれるとドキドキするし
(指さないと負け)、麻雀でも負けが込んでいると、打牌が大雑把になったりすることはある。無論、その様な状況は勝負に直結し、
おおよそ悪い影響を与える。

よく人は「明鏡止水」だの、「平常心」だの言うが、そのような中でも、
実際に言行一致できるかは別の話であり、それに限らず、
言行一致できる人間は「真に強い」といえるのではないだろうか、
というのが、本を読んだ感想である。

そして、その「真の強さ」は、間違いなく鈴木大介九段にはあるのでは、と
思えてならない。鈴木大介九段の優しさも、強さも伝わってくる本である。

#BEASTJapanext
#鈴木大介

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