[翻訳]アート + アクティビズム――現実の世界に現実のインパクトを生み出す

2017年2月22日、ナタリー・エイベア/MUTUALART 編集部

原文:NATALIE HEGERT /MUTUALART - Art + Activism: Making a Real Impact in the Real World

[写真1 原文参照]

SUPERFLEX《病院内設備》 (2014) 写真:PalMedSuperflex

 芸術のための芸術〔自律的芸術〕は、今日の過熱した政治状況のなかでは、擁護しがたい立場――あるいはひょっとすると罪深い快楽でさえあるかのように思われる。他と比べて特権的なアートの体制内でさえも、アクティビズムの理想がますます前面に押し出されるようになっており、アーティストは政治的見解の表明を要求されるようになった。折しも 2月16日、総勢 200 人超の著名な現代アーティスト、キュレーター、ライター、ミュージシャン、映画人たちが、「右翼のポピュリズムやファシズム」の台頭と「増加している外国人憎悪、人種差別、性差別、同性愛憎悪、開き直った不寛容の表現」に対し、展覧会、アクション、企画構成を通じて闘うために、「私たちの革命に干渉するな」(Hands Off Our Revolution)という挑戦的な旗印を掲げて、世界規模の同盟を結成することを発表したばかりだ。そうしたアーティストでありながらアクティビストでもある人々は次のような問いに繰り返し直面する。美術展やシンポジウムといった「高尚な世界」で行われる働きかけが、「現実の世界」のなかにインパクトを本当にもたらすことができるのか? この問いについて検討するために、世界に実質的な変化をもたらすことを目指す国際的アーティストや開催中の美術展によって、最近どんなアクティビズムのアクションが行われているかを見てみよう。

[写真2 原文参照]

セドリック・タマサラ《無題》(2016) 紙にインクとグラファイト、100 x 70 cm。コンゴ農場労働者アートサークル。

 アクティビズムのアートアクションにあたるものの範囲は広い。実際、個人間のやりとりのレベルで働きかけるものから、具体的な目標に向けた広域的な取り組み(資金調達など)や、直接確認しがたいもの(意識向上など)までに及ぶ。同様に、こうしたアクションの効果もまた相当にさまざまだ。最近、彫刻家アニッシュ・カプーアは、ジェネシス賞の賞金100万ドルを受け取る際に、その賞金を自分とともに歩んできた難民の支援に使うと発表した。また、ロサンゼルスの地域社会のなかで里子支援のアート NPO を共同設立した画家マーク・ブラッドフォードは、最近報じられたように、次回のヴェネツィアビエンナーレ出展作品の一環として、現地女性の元服役囚の社会復帰支援に取り組む意向を示している。他方、美術家クリストが、トランプに反対している団体からわずかな支援を受けながら長年準備してきたクリスト&ジャンヌ=クロード名義のプロジェクト《オーバー・ザ・リバー》を突然放棄してしまったことについては、アート界隈では驚きの声が上がったが、おそらくその敵対者にとっては結局大して痛くはなかっただろう。こうしたアーティスト全員がアート界隈で高く評価されており、それぞれの決断にメディアの関心をかなり集めてきたが、アクション自体の目標とインパクトそのものは幅広く異なっている。

[写真3 原文参照]

明日少女隊《女子力カフェ》(2017) インスタレーション。ソーシャリー・エンゲイジド・アート展(東京・3331 アーツ千代田、2/18~3/5)にて。写真:明日少女隊

 しかし大半のアーティストは、自らのネーム・バリューや、ヴェネツィア・ビエンナーレのような著名なアート・イベントの恩恵を受けずに、それぞれ関わっているコミュニティに変化を引き起こそうとしている。なかでも一部の人々は、現状に立ち向かうために、匿名性という防御手段を使わなければならない場合がある。2015年に結成されたフェミニストのアート集団・明日少女隊は、あの有名なゲリラ・ガールズ風にピンクのバニー・マスクをかぶって、日本や韓国などの若い世代にジェンダー平等のメッセージを送っている。 敵対する家父長制のなかでフェミニズムを広めていくには、マスクをかぶって、よくあるバックラッシュの恐ろしい暴力から自分たちを守らなければならないのだ。匿名性のヴェールをまとうことによって、明日少女隊は自分たちのメッセージを恐れずに伝えることができる。このグループは、活動の大半をインターネットとSNSで展開しているが、最新のアクションでは、性暴力ならびに旧態依然の強姦罪規定をめぐる意識向上のためのキャンペーンの一環として、国会前でデモを行った。明日少女隊によるビリーブ・マーチのビデオと制作物は、現在、東京・3331 アーツ千代田で開催中の展覧会「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展――社会を動かすアートの新潮流」に設置された《女子力カフェ》に展示されている。また会場では、フェミニズム関連書が配布されており、ジェンダー問題について語り合う場が設けられている。(会期:2/18~3/5)

[写真4 原文参照]

ペドロ・レイエス《ピストルをシャベルに》(2008~) インスタレーション。ソーシャリー・エンゲイジド・アート展(東京・3331 アーツ千代田、2/18~3/5)にて。写真:Haruhiko Muda

 3/5まで開催中の「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展」は、日本国内外のアーティストによる社会実践としてのアートを紹介する日本初の本格的な展覧会だ。外国人アーティストとしてはアイ・ウェイウェイ、スザンヌ・レイシー、ペドロ・レイエスなど、また日本人アーティストとしては西尾美也、高川和也、若木くるみなど、さらにはアート集団としてパーク・フィクションやママリアン・ダイビング・リフレックスなどが参加している。他のソーシャリー・エンゲイジド・アートの展覧会と同様に、今回多くの作品のなかに美的対象とアクティビストの目的の間の緊張関係が現れている。同形のシャベル 10 本が一列に並べられているペドロ・レイエス《ピストルをシャベルに》(2008~)は、芸術作品を通じて社会変革を打ち出すという課題にもっともよく取り組んでいる作品かもしれない。レイエスのシャベルは、回収したピストルから得られた金属で制作されており、オリーブの植樹に使用されている。まさに、暴力的な武器を、平和の象徴を植えるための道具に変えているのだ。

[写真5 原文参照]

SUPERFLEX《病院内設備》(2014) 写真:Anders Sune Berg

 シャベルといえば、アートの歴史にはもちろん前例がある。マルセル・デュシャンの有名なレディメイド作品《折れた腕の前に》(1915)だ。レディメイドは、有用なモノとして役立つのではなく、芸術の領域すなわち無用なモノの領域へと引き下がる。本稿で論じているソーシャリー・エンゲイジド・アートはそのまったく逆だ。しかしオランダのアート集団 SUPERFLEX は、まったく役に立たないモノではなく、命を救うレディメイド・アート――制作者たちの言葉でいえば「逆さまのレディメイド」――という着想を追求している。現在スイス・Sシャンフのアート・スペース、ガレリエ・フォン・バーサに展示されている《病院内設備》(2014~)は、 生命維持装置と外科手術器具から成るアート・オブジェだ。展覧会の会期終了後に、このアート・オブジェが写真資料に置き換えられる代わりに、実際の医療器具が、とくに求められる場所であるシリア・ハワーテのサラミエ病院へ搬送され、病院内設備として使用されることになっている。

[写真6 原文参照]

インスタレーション。コンゴ農場労働者アートサークル、SculptureCenter(ニューヨーク)、2017年。写真:Kyle Knodell

 しかしアートを有用なモノに変えることを意図するプロジェクトは、疑問を投げかける。そもそもアートである必要があるのか? また別の展覧会について考えてみよう。現在ニューヨークの SculptureCenter で開催中の、アートを同館の社会変革プログラムの中心に位置づける展覧会だ。コンゴ農場労働者アートサークル(Cercle d’Art des Travailleurs de Plantation Congolaise, 以下 CATPC と呼称)は、コンゴを拠点とし、植民地搾取の後遺症に苦しむ地域で利益と就労機会を生み出す手段としてアートを活用している彫刻家集団だ。コンゴのヤシ油農家やカカオ農家は、いまだに、生産した原料と引き換えにほんのわずかな収入しか得られない。そうした状況で、CATPC は同じ原料を彫刻作品に転用し、アート・マーケットで販売することによって、「国境を越える生産・製造分業ラインのなかでオルタナティブな位置を獲得」ている。同様にして CATPC は、不公平な方法で労働者から利益を搾取し続けるシステムや経済構造に対して、また(英国立テート・モダン美術館タービン・ホール運営委員会のスポンサーであるユニリーバ社のように)かつて植民地支配によって成長し現在アート界隈でも幅を利かせている企業に対して、光を当てている。オランダの美術家レンゾ・マルテンスのプロジェクト『人間活動研究所』とのコラボレーションにより、CATPC は地元コンゴのルサンガに研究センター兼アートスペースを設立しようとしている。そこは、かつて、ユニリーバ社のプランテーションがあったため、「リーバヴィル」と呼ばれていた場所だ。協力者のマルテンスは、「この世界にはあまりにも多くの不平等が存在するので、私はただ政治的批判のアートを制作するのにとどまらず、権力の場所でそれを展示したい」とコメントしている。美術界の伝統的中心地からおよそ限界まで遠く離れた場所でこそ、アート・プロジェクトが現実の世界に与えうるインパクトの限界が試されるのだ。

[写真7 原文参照]

自作を見つめるジェレミー・マビアラ、2015年。コンゴ農場労働者アートサークル。


展覧会案内

ソーシャリー・エンゲイジド・アート展――社会を動かすアートの新潮流

東京・3331 アーツ千代田にて、2017年2月18日から3月5日まで開催


SUPERFLEX《病院内設備》

スイス・SシャンフのGalerie von Barthaにて、2017年2月17日から3月18日まで展示


コンゴ農場労働者アート・サークル展

米国・ニューヨークの SculptureCenter にて2017年1月29日から3月27日まで展示


#アート #アクティビズム #アクション

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