せき まりほ
田舎暮らしの実態
道の駅と直売所の記録
私の歴代の彼氏は全員、農家だ。 初めて手を繋いだのも、 初めてキスを交わしたのも、農家の男達。 第一次産業殺し と呼び名がついてもいいほど、私は農家の男との交際を重ねに重ねてきた。 ある時友人から 「彼氏とのデートはどこに行くの?」と質問されたことがあり、 どこも何も畑だけど?と返すと 「えっ?」と眉間にしわをよせ 「マジか…」と半ば絶望的な表情を見せられたことがある。 世のシティガールからすれば、ランドだのシーだの代官山だのがデートスポットになるわけで、畑仕事をデ
農家の友人と食事をしている時、 突然、彼はカミングアウトをしてきた。 「僕、童貞なんですよね」 - 「過疎化地域で出会いもないし、もう諦めるしかないと思ってます」 と まるで余命宣告を受けたかの如く深刻な顔持ちでため息をつく彼。 私はなんとか振り絞る思いで 「大丈夫!恥じらうことではないし希少価値で言えば童貞は立派な有形文化財だよ!!」と奮いおこすも彼の聞く耳はなかった。 生まれた時から限界集落で生きる農家にとって、この童貞問題は深刻な悩みだという。 中学を卒業し
「出身は 埼玉 です」と答えると何故かしらける。 「北海道」や「沖縄」だったら 「おお!」と謎の歓喜が湧くのに 対し 「埼玉」には それ がない。 「あぁ、埼玉ね。」と勝手に納得されたうえ 「ちなみに、先週のアメトーク見た?」と勝手に会話がすり替えられている。 「埼玉は何もないよね」と思われる度に心が痛い。 だが、 「何もないのが埼玉の良さだよ!」 と無駄に張り合う自分は もっと 痛い。 しだいに私は「埼玉コンプレックス」を抱き、 「出身は埼玉です
初めてのデートも、 初めてのキスも、 初めての喧嘩も、 青春の舞台は いつも「直売所」だった。 まだ けがれの知らない18の夏、 私は農産物の宝の山に 一瞬にして心を奪われた。 直売所が好きだ。 それ以上に 直売所にいる農家が好きだ。 真っ赤な会員キャップを被った、 まだ慣れない手つきでバーコードシールに苦戦する農家の父。 商品促進の手書きポップ、 「夫婦は冷めても野菜作りは本気です」と 至って真面目に夫婦関係を露呈する 農家の母。 生産者と消