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【今日のニュース 10/5】食料危機、2023年に深刻に 天然ガス高騰で作れぬ副作用

世界の食料安全保障が新たなリスクに直面している。ウクライナ紛争の長期化によって、窒素肥料の原料であるアンモニアの生産コストが膨らみ、欧州では生産停止や減産の動きが相次ぐ。ウクライナ産の小麦などを「運べないリスク」に続き、今秋以降は肥料の供給制約と価格高騰で途上国を中心に「作れないリスク」が高まる。来年にかけて食料不安が深刻になる恐れがある。

9月20日、国連総会の首脳級演説で、グテレス国連事務総長は世界の分断への懸念を示したのに続き、こう警告した。「世界的な肥料の逼迫に緊急に対処しなければならない。今年は食料は十分にあるが、輸送に問題がある。来年の問題は食料供給そのものになるかもしれない」

化学肥料の三要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)は生産地が中国やインド、米国、ロシア、カナダに偏っている。インドや米国は国内消費が中心であり、世界最大の肥料輸出国がロシアだった。

肥料の価格はもともと中国やロシアによる輸出規制で2021年秋から急上昇しており、ウクライナ紛争で上昇に拍車がかかった。

世界銀行が算出する肥料の国際価格指数(10年=100)は8月に210となった。ピークの4月の255からは低下したが、前年同月の1.6倍、2年前の2.8倍の水準で高止まりが続く。

心配なのは、ロシアによる肥料の輸出規制の強化という直接的な影響に続き、今度は天然ガスの高騰が肥料の供給制約やコスト高につながる「第2ラウンド」に入りかねないことだ。

ほとんどの窒素肥料はアンモニアを原料とする。欧州での供給制約はグローバルな窒素肥料の逼迫につながりかねない。カリウムはロシアとベラルーシが世界市場への供給量の41%を占めており、経済制裁による調達難の思惑から価格の高止まりが続いている。

国際肥料協会(IFA)は今年度(日米欧など多くの国では22年7月~23年6月)の全世界での化学肥料の投入量が最大で前年度比7%減になると予測する。肥料コストの増加に直面した農家が肥料投入を手控える動きが広がるためだ。農業生産方法を変えずに肥料の投入を減らせば、収穫量は落ちる。IFAは窒素肥料の投入が5%減った場合、世界全体のコメの生産量は1.5%、小麦の生産量は3.1%それぞれ減少すると試算している。

天然ガスの高騰に続く肥料供給の制限や高騰が現実になれば、2023年はより多くの人々が飢餓に直面することになりかねない。特に北アフリカやアフリカ沿岸の地域では主食である小麦の大半をヨーロッパ地域やロシアなどからの輸入に頼っているため、食料不足やそれに伴う政治の不安定化が引き起こされかねない。

10年前でも、小麦の価格高騰が遠因となってジャスミン革命をはじめとした「アラブの春」が起こったとされている。2月から始まったウクライナ侵攻は、世界中のあらゆる不安材料を連鎖的に引火させているように思える。

個人的には、食糧不足が現実のものとならないことを願うが、もし本当になってしまったときは、国連やNGOによる援助が頼みの綱となるかもしれない。

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