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ショーケンが飾ったもの。

中島ひろ子、裕木奈江、西島秀俊を輩出した「東京アクターズスタジオ」という俳優養成所に、大学卒業後通っていた。
塾長はTBSの大御所演出家・大山勝美(『ふぞろいの林檎たち』『岸辺のアルバム』など)。受講料免除の午後クラスと、20万円の受講料が必要な夜間クラスがあり(受験をしてどちらかに決まる)、授業はそれぞれ週2回、各3時間。講師はテレビの演出家や映画監督などが担当し、生徒は『ふぞろいの林檎たち』などのワンシーンの台詞を次の授業までに覚え、演技プランも自ら考え、当日組まされた相手役とリハーサルをし、講師が演技指導をしてから本番、最後にテレビカメラに収めた映像を講師が講評するという内容だった。
期間は半年で、約45人が卒業時には25名ほどに絞られた。クラスメイトのほとんどはプロダクションや小さな劇団に所属している18歳〜25歳くらいまでの男女──仲間であり、ライバルだった。

ある日、映画監督の恩地日出夫さんが講師としていらした。演技指導もしてくれたと思うのだが、それよりも演出を手がけたテレビドラマ『傷だらけの天使』の話が忘れられない。主演は、ショーケンこと萩原健一と水谷豊。それにゲストの桃井かおりが加わった3人のおしゃべりが、マイクを通して恩地監督に聞こえたのだという。(調べたら、第14話「母のない子に浜千鳥を」のようです。)

それは、台本を読んでいた桃井かおりのこんな台詞から始まった。

桃井かおり「ねえ……、私の台詞に”故郷になんとかを飾る”ってあるんだけど、これ、なんて読むの?」
ショーケン「あ?……お前、バカだな。これはワタ(綿)って読むんだよ」
慌てた水谷豊「あ、えーと、それはニシキ(錦)って読むんだと思いますが……」
ショーケン「……おう、そうとも読むな!」

桃井かおりは本番でその台詞を「故郷にさあ〜、錦を飾るっていうのぉ〜?」と自分らしい口調で言ったのだとか。恩地監督はこの愉快なエピソードを通して、「台詞は脚本どおりでなくてもいい。その役柄として魅力的な言い回しを考えたらいい」というようなことを言っていました。

ショーケンこと、萩原健一さんのご冥福を心よりお祈りします。

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