100日後に30歳になる日記(11)

◆4月15日

 夜、寝付けなかった。パソコンを開いたらまた眼が冴えてしまいそうで、ラジオを聴くことにした。ローカルFM、その時間帯はちょうど若者向けの番組をやっているみたいで、かかる歌もいかにも十代向けの音楽ばかりだった。まあ、たまには悪くない。私も中高生のころはこんなふうなラジオ番組を聞き流しながら勉強していた思い出がある。

 お便りのコーナーに移って、お悩みメールが読まれ始めた。
 送り主は女子高生らしい。高2のクラス替えで文理別になって、理系の彼女は男子ばかりのクラスに入った。仲良かった女子はみんな文系で、理系クラスの女子は女子でもう仲良しグループが出来上がっていたせいで、一人ぼっちになってしまって、今日の放課後に思わず泣いてしまったという。読み終えた司会のひとは、自分から積極的に話しかけてみたりして新しい出会いをとか、極論学校に行かなくたって何とかなるよとか、そういうアドバイスをしていた。聞いていてどうにもトンチンカンなアンサーだったから笑ってしまった。
 けれどまあ、私だってこんなお悩みにどう答えたらいいかわからない。私は中高一貫して友達がいなくて本ばかりを恃んでいたし、そんな時代ももう十年以上も前だ。配偶者や子供がいない一人ぼっちさには胸を痛めているが、友達のいない孤独の味を私はとうに忘れている。今はまあ一人か二人友人と呼べるつながりがあるからかもしれない。SNSにだって文章だけでつながっている人がいる。ねぇ、みんな、友だちだよね? ともあれ私だったら彼女に、まあそのうち仲いい人ができるよとか楽観的に答えるだろうか。けれど私が既婚者とかに、そのうちいい人見つかるよなどと言われたら、たぶん暴れ狂うだろう。助言というのは難しいな。どうしたら、どう言えば、などと考えているうちに、私は眠った。

◆4月16日

 今期のアニメ「アイドルマスター シャイニーカラーズ」を観た。友人がシャニマスのソシャゲのほうにハマっていて、じゃあアニメから入ってみるかと。出来が良かったので面白かったとLINEで伝えたら、相手方からは、アニメ版はあんまり……と返ってきた。1話がハマらなかったみたいだ。1話だけで評価していいのかシャニマス愛はそんなものかと挑発すると、電話越しに一緒に2話を実況することになった。観終えて、やっぱりいいじゃんと私が言うと、良かったわ、と返答がある。そのあと、このキャラはこういう性格でうんぬんと、シャニマスの講義を受けた。

 八宮めぐるが好きと言うと、こういうの好きそうだよねと見透かされた。俺は抗弁した。たしかに金髪で乳の大きな元気っ娘が好きだけどそうじゃなくて資本主義のキッチュさとメタアイドルとしての八宮めぐるの素晴らしさはですね……

◆4月17日

 レイモンド・チャンドラー「大いなる眠り」を読んだ。ハードボイルドの代表的人物・マーロウの小説。同じシリーズでは「ロング・グットバイ」と「リトル・シスター」が既読。その二作とも読んだのはだいぶ前で、それからシリーズを踏破しなかったことを思えば、私にはハマらなかったのだろう。もうあらすじも覚えていない。けれどこの「大いなる眠り」に関しては、探偵の意地や矜持が存分に発揮されていて、最高だった。物語後半に登場するハリー・ジョーンズというキャラが私好みで、別に金髪巨乳元気っ娘ではなくてちびのやくざ者なのだけど、小悪党の生きざまが胸に刺さった。マーロウも見直すわけだ。マーロウとは違う意味でタフな男で、少し泣いた。

◆4月18日

 起床、労働、睡眠。

◆4月19日

 vtuberのワードウルフの動画ばかり見ていた。ワードウルフとは、たとえば四人いるとして、おのおのに単語が配られる。それは例えばりんご、りんご、りんご、みかんという風に、多数派と少数派ひとりに別れる。それから制限時間内に、お題について話し合って、だれが少数派なのかを当てるという言葉の人狼ゲームだ。例に挙げたりんごとみかんだったら、食べる? とか大雑把な質問から始まり、季節のイメージはとか産地はとか、色は、とか互いに質問しあい、村人のりんご側は仲間を見つけ出したり、みかん側は自分が人狼だと分かれば多数派のワードに擬態したりする。
 私が特に気に入ったvtuberのワードウルフ動画では、お題が「お母さん(多数派)」と「上司(少数派)」だった。けれど多数派の中にお母さんが諸事情でいなかったり大嫌いだったりする人がいて、場に混乱が沸き上がっていた。

 全員知らない人なので声で誰が喋っているのかわからないのだけが難点。

◆4月20日

 イオンに行ったら服売り場の場末も場末で冬服が半額にさらに半額の値段で売られている区画があって、肌着だのなんだのを手当たり次第に買った。今年の冬はおしゃれになるぞ。早く雪が降れ。

◆4月21日

「アイドルマスター シャイニーカラーズ」3話を観る。前回のあらすじを博多弁の女の子が担当していて、方言っていいな……となった。かわいい。魅力的。でもこれは博多弁が可愛いというだけで、関西弁とかだとそうはならないんだろうな。私はたとえば「知らんけど」というのが親の仇のように苦手で、文末や語尾に知らんけどとあるだけで書き手や発話者をぶちのめしたくなるばい。こんなヘイトスピーチも方言をつけるだけでマイルドになるので、博多弁、よかばい。調べたら、好き、というところを九州は「好いとーと」と言うらしい。こんなん耳元で言われたらもう、ね。なまらめんこい。鎮守の森に連れ込んでおっぺするべさ。おっぺしたいべさ。吸いとーとされたいべさ。あの、方言は人をばかにしていい免罪符じゃないですよ。はい。

 本棚を少し整理した。やっぱり納まりきらなかった。

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