「愚か者同盟」を読んだ
ジョン・ケネディ・トゥール「愚か者同盟」(国書刊行会)を読んだ。コメディ小説と帯に書かれているだけあって、ハチャメチャに面白かった。
作者の経歴が表紙の裏手に書かれてある。引用する。
よい経歴だ。自死したのちに名声が上がる。嫌いではない。経歴が作品の質を保証するわけではないが、この作者の経歴だけで「愚か者同盟」を読んでみたいと思った。あらすじはこうだ。
最高の主人公だあ……。読んでみると、主人公は肥満で知性のあるひろゆきという具合、詭弁に詭弁を嘘に嘘を重ねてその場その場でごまかしやり過ごし、ついに破局を迎える。破局とはいえ大団円で、後味が悪くないのも気に入った。あるべき人たちがあるべき場所におさまり、もしこの小説が作者の存命のうちに出版されていれば、何か続編があったかもしれない。主人公がまたさすらう場所で別の騒動を引き起こす一篇があったかもしれない。当時この小説を世に出さなかったのがひどく惜しまれる。
妄想に憑かれた主人公の放言はところどころ的を射たことばもあって、それがいっそういい味を出している。あらゆる行動が滅茶苦茶な彼だ。最初勤めた事務仕事では書類を全部廃棄して仕事し終えたふりをしたり、次の職場のホットドック屋では食材をむさぼり食べたり、働きたくないという彼の一念ばかりは共感できる。あれこれやりすぎな感はあるけれども。唯一の家族の母親からもしだいに邪魔者にされてゆく彼は、なんだかかわいそうだ。やることなすことが頭のねじが外れているので同情はできないが。
ホットドック屋に落ちぶれた息子を評して、母親は仲のいい女友達に、次のように言う。
この箇所を読みながら、私は己の母親を思い出していた。ごめんなさい、と思わず口から洩れた。ごめんね、母さん、慰めを与えてられていない、ろくでなしの息子の俺だよ。大学にも行かせてくれたのにね。
主人公の母親は、息子を共産主義者ではないかと疑ったり、しまいには精神病院に隔離しようとする。精神病院に関しては妥当な判断であると思う。
アンジャッシュのコントみたいに各登場人物の見ている世界が食い違い、めいめいきりきり舞いになっているのがまた好い。誰もかれも憎めない好(悪)人物で、エピローグ前の、各人に降りかかる悲喜劇は胸がすく。エピローグの章に入った冒頭が、主人公がマスを掻く場面ではじまるのはとても笑った。残りページは解説かなと思いながら開いた次で、ゴム手袋オナニーの描写がなされるのは、いかにもこの小説らしかった。どこまでも下品で、屁理屈も理屈のうち下品も品のうちであるから、絶対値にすればぶち抜けて品のある小説だ。下品といえど主人公はどこか潔癖でまっすぐで、隣人に彼がいればとうてい受け付けられないけれど、読み物の人物としてはこれ以上なく魅力的である。好い読書をした。
表紙には主人公の似顔絵が描かれている。読み終えて見直すと、すこし愛おしく思えた。
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