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雑記(年末)

●床屋に行った。店主から、うちの店初めて? と訊かれた。何度か来てます。答える。散髪が始まる。思い出した! 店主が言った。前に来てたねぇ白髪で思い出したよ、この白髪で。白髪増えたねぇ! 私は愛想笑いをした。


●今年の抱負は禁酒と禁煙、筋トレのいわゆる3つのKであった。どれひとつ果たせずもう2022年も終わる。来年に持ち越しにする。
 
 一年がとてつもなく早かった。びっくりしちゃった。春に前の女と別れて以降、時の流れが早すぎる。アークナイツをしていたことしか思い出せない。来年はもっと早いのだろう。

 読書ももはやまともにしてはいなかった。来年はたくさん読みたい。去年もそう念じたおぼえがある。抱負ばかりが積み重なって、何から手を付けていいのかわからない。とりあえずは本棚を整理した。


●恋愛の進捗は駄目です。クリスマスプレゼントにまた30万使わされそうになったので、濃厚接触者になったと嘘をつく荒業でクリスマス終わりまで会わない作戦に出た。

 もし体調を心配されたら好きになってしまっただろうが、一言目がありえないだったので嫌いなままでいられた。危ないところだったぜ。

 このあと、誠意を見せて埋め合わせをしろと要求されたので、指でも詰めればいいのかなぁと思った。キャンセルしたディナーよりも高いディナーを、クリスマス明けに予約することで禊をした。私の最愛の彼女である。


●今日はそういうわけでデートがなくなって、ほっと一息、充実して過ごせた。近くのセカンドストリートで衣料品割引セールをやっているらしい。さっそく行った。新古品が結構あった。元の値札を見ると3万円のジーンズが、8割引きくらいの値段になっている。手にとって、試着してみる。

 半畳もない試着室、ジーンズの履き心地は悪くない。ふと姿見に、自分の疲れた顔を認めた。髪の毛も心なし色褪せている。先月にマッチングアプリを始めてから今の彼女に出会って、振り返れば心が充溢した記憶がない。気分はいつもくさくさしていて、彼女ができてからはいっそう荒れた。

 損切りを出来ずにずるずると付き合いを続け、心の疲れは髪に出る。床屋に行こうと思った。


●床屋から帰って、我が家の洗面所の鏡に、セカストで買ったジーンズを履いて映した。散髪前よりはすこし生気が出ているようだった。白髪も抜いてくれたみたいだ。

 いつまでこんなふうにその場しのぎで生きていけるだろうね。わからなかった。自分のご機嫌をとるのでさえ億劫になってきている。もうどうにでもなればいいと思うし、どうにでもなってはいけないとも思い、どうにかしなければいけないとはわかっていても、どうにもならないのもわかっている。

 やっぱり俺は死ぬべきだな。ひとり合点をした。来年は29歳になる。世間のふつうのひとたちは、こんなふうにぐちぐち書いて暇を明かしていない。めいめいにきっとやるべきことがあって、それをきっかり果たしているはずだ。私はやるべきこともやりたいことも年々削れて、いまではもう、自分が何なのかさえよくわかっていない有様。こうなっては生きているのか死んでいるのかその別さえつかない。人間として俺はカタワなのだ。

 これ以上あれこれ考えないために缶チューハイを買ってきた。プルタブを引く。この一瞬のために生きている。それでいいか? いいわけないな。


●小学生のころ、クラスでプルタブを集めていた。みんな自分の家とかから持ち寄って、どこかに寄付して、プルタブはやがて車椅子になるのだという。私も親が飲んでいたビール缶からプルタブをせっせこ千切っては集めた。あの日のプルタブは車椅子になれただろうか? なれていないかもしれない。プルタブの世界にもきっと色々あるだろう。


●あき竹城が死んだ。悲しい。あき竹城といえば道民にはおなじみのCMがある。CM内の、冬はやっぱしさびーなぁ、というあき竹城のセリフを誰もが脳内再生できる。何のCMなのかは覚えてない。たぶん美容系だろう。今年は私みたいな流行遅れでも知っているスターたちが多く逝って、悲しい。

 床屋の店主との会話は弾んだ。彼女とするよりも楽しかった。あき竹城の話が出た。ファンだったみたいだ。店内のテレビのワイドショーで、訃報は長く報じられていた。俺みたいなもんが死んでも新聞にも載らないな、と店主が言った。僕は悔やみます、と返した。髪切るところなくなっちゃうので……。

●コンビニで酒を買ってきた。近所のファミリーマート。私の吸う煙草の銘柄、ホープメンソールの取り扱いが近くだとここしかないので愛用している。店長はおじいさん。名札の名字から、たぶん家族で多くシフトを組んでいるのだと類推している。この人が亡くなったらこの店もなくなるのだろうか。困るな。禁煙しなきゃいけなくなる。

 夜の時間帯には、去年辺りから中年の男性店員が、すっかり顔なじみになった。一年たった今もレジ業務の挙動がおかしくて、そういう枠採用なのだと勝手に思っている。
 
 けれど受け答えは丁寧で、他の店員さんなら会計が終わってさあ次の客となるところ、私含む常連に、いつもありがとうございます、と声をかけてくれるので、私も少し救われている。ありがとうって言われるのは心地良いものだ。きっと誰だってそうだろう?


●会計を終えて床屋を出る。店主が言った。ありがとうございます、またお待ちしてます。

 とりあえずは次の散髪まで生きようと思った。

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