闇夜を照らせるのは…
人は『悩み』を抱えて生きている。この世に生まれ出た時から死に至る刹那まで、それはついて離れる事はないー。
そう、けっして拭い去る事は出来ないのだ。
それが『生きる』という事なのだから。
そんな自分たちに必要なもの…
笑顔をくれる。それが唯一の…
ー裏話ー
天体望遠鏡公演『賛成の天体』
その『打ち上げ』を終え、俺は〝北上〟の街を歩いて帰る。
時刻は〝草木も眠る丑三つ時〟
市街地から郊外へと、闇に静まる夜の道を2日間に及んだ公演の達成感を染み染みと噛みしめながら歩みを進めている。
…。
膝が〝悲鳴〟をあげているが、俺は歩む。
ひたすらにー。
息切れしながら『ハァハァ』歩く。
眼鏡、曇る。
俺の隣には
『賛成の天体』オッパイ役の『小原嬢』
スタスタ歩く小原嬢。
置いてかれまいと必死についてく限界の小野。
何故にそのような状況であるのかー。
俺が『心配症』だからである。
〝家まで走って帰る〟という小原嬢の事を、万が一を考えてしまう俺が、居ても立っても居られずに、勝手に着いてきてしまったのだ。
飲み屋から小原嬢のご自宅まで『あれ?けっこー距離あるんじゃない?』と膝の震えが増すのを感じるとともに、
『この距離を、本当に走って帰れるんか…』
〝若さへの嫉み〟に駆られつつも、周囲を見渡し、人の気配、危険を感じない事も分かり、
『余計なお節介だったかな?』
ーと、烏滸がましくも安堵していた。
なので帰り道。
小原嬢に俺の〝霊体験〟の数々を語り〝恐怖〟を煽ったっ‼︎
◯男鹿半島〝初〟の未確認飛行物体遭遇&撮影‼︎
◯地元心霊スポット『身分けの森』取り憑かれた話
◯サードマン現象
◯最近の話。我が家へようこそ!座敷童ちゃん⁉︎
さほど小原嬢は怖がってはいなかった…。
…。
小原嬢は無事に家に帰っていった。
あたりは、闇夜と霧に包まれているー。
『お芝居』は無事に家に帰る迄が『お芝居』
by homes!ck
いつの頃からか、俺の心に決めた〝座右の銘〟
自分の事のみに当て嵌めず、皆んなが『笑顔』で無事に帰れたのなら尚、喜ばしい。
小原嬢が帰路に着く間際、『笑顔』であったのか…それは分からない。マスクから漏れ出る吐息で眼鏡が曇り、残念ながら表情を窺い知ることは出来なかったがー、
『笑顔』で終われる
そんな『賛成の天体』であったならと願う
ー裏裏話ー
ひとり。夜の道を帰る。
『お芝居』は無事に家に帰る迄が『お芝居』
by homes!ck
残すは自分だけとなった。
目指すは〝千田邸〟
未だ〝霧〟が俺の視界を遮っている。
…。
今の俺は、どんな表情をしているのだろうか?
カタプレキシー(情動脱力発作)
ナルコレプシーという過眠症の一つで、驚いたり、大笑いすると全身、もしくは身体の一部の力が抜けてしまい、その場に倒れてしまう。
先生の『奇病』の正体と思われる。
この〝カタプレキシー〟について色々と調べるうちに、先生の状態があまりに危険だという事実だけが、浮き彫りになってしまった。
万が一にも〝運転中〟に症状がでて、事故にあってしまったら?先生の場合、十分にあり得る事態だ。
やはり、今後は出来るだけ先生との接触を避けねばなるまい…。
俺は先生の『笑いのツボ』らしい。
『笑う』=『死の危険』こんな冗談じみた経験など未だかつてない。
午前3時25分〝千田邸前〟
俺は立ち止まる。2階の部屋に居るであろう先生の〝気配〟を五感を研ぎ澄ませ探る。
先生は起きている。
部屋に灯りは灯されていないがー、眠れずにいるようだ。
考える。
悩む。
…。
俺は、どう先生に接して良いのか分からなくなっていた。
〝あの時〟から先生はこうなる〝自分〟を分かっていたのだ。
先生は、俺が心配症で思い悩み出す事を分かっていて遠ざけようとしていた訳だ。それを理解しない自分の不甲斐なさを恨むー。
とりあえず、中に入ろう…。
朝の段階で、先生に内緒で2階の窓の鍵を開けておいたー。
〝パルクール〟ばりにアクロバティックに2階から千田邸に潜入する。
一部、屋根を『破壊』する。
しれっと、部屋に入る。
小野
『戻りました。先生』
先生
『おう、何だ?こんな時間まで店開いてたか?』
小野
『ええ、少し色々ありました』
先生
『そうか』
俺は言葉を選ぶ。
先生の『奇病』が発症しないよう、慎重に言葉を交わす。
そんな会話をしながら寝床に就いた。
…。
賛成の天体2021の〝アニキ〟の台詞
『こんな闇夜を照らせるのはそれだけだ…』
この台詞が意味するもの
笑顔を禁じられた人間の心中とは如何なものなのか?普段と変わらず接してくる先生の負担はどれ程のものか?
何をどう頑張っても、今の俺には〝理解〟〝解決〟その糸口にすら辿り着くことは無かった。
朝を迎え、昼になり、俺は帰路に着く。
別れ際、これまでで1番のショッキングな倒れ方をされた。
俺は動揺を隠せなかった。
顔面から倒れ込み、慌てて姿勢を仰向けにすると口顎が痙攣を起こしている。
俺は『何を』したのか?もう原因が分からなかった。
俺が居るだけで先生の命が危ぶまれる。
先生は数分後に症状も治り〝大丈夫〟と言われたが、やはり見るに堪えない。
何か助かる方法はないのかー。
考える。
悩む。
…。
帰路の最中、先生より電話が入る。
先生
『気にするな』
『お前は何も悪くない』
『だから、気にするな』
先生はいつものように俺を心配してくれている。俺がさっきのが原因でまた思い悩んでいると察し、すかさず電話をよこす。
…。
小野
『先生、こんどソレみしてやりましょう』
先生
『?』
小野
『皆んな心配してます。だからー』
『先生がどんな感じに大変なのか、こんど〝俺たちで〟みせてやりましょう‼︎』
先生
『ぶはぁっ』
先生は口から何かを吐き出した。
俺はすかさず電話を切る!
何故なら今俺は『運転中』である。
『お芝居』は無事に家に帰る迄が『お芝居』
それを〝遂行中〟なのである。
何人もその〝邪魔〟だけはしてくれるなっ‼︎
小野
『右、左よし!前方青信号よし!発進っ‼︎』
俺は思い出す。
自分は〝面倒臭がり屋さん〟である事をー。
自分一人じゃ解決出来ない事柄に触れ続けると
〝どーでもよくなっている〟
人前じゃあ、すごい心配しているように見せて心配などしてない。
『生きる』とは『演技』の連続!
それが裏話の全貌‼︎
『反省の反対の小野』
即ち
『反省しない小野』となる…。
『闇夜を照らせるのは〝俺〟だけだ』
終わりー
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