老ぬいホーム見学物語⑤

 地下鉄に乗って辿り着いた老ぬいホームは、新聞の記事で見た通り、自然に囲まれた落ち着いた建物だったので、ジンペーちゃんは少しホッとしました。
 通い馴れているうさみちゃんと一緒に、ホームの中に入ると、うさみちゃんはすぐに他の職員さんに呼ばれたようでした。そして、何か忙しそうに去っていった職員さんを目で追いながら、
「ごめんね、ジンペーちゃん。うさみ、急いでお手伝いに行かないといけなくなっちゃった。案内してあげる約束だったのに、本当にごめんね」
 心底申し訳なさそうなうさみちゃんに、ジンペーちゃんが、気にしないでいいから早く行ってあげてと促すと、
「ありがとう、そこで受付の手続きを済ませたら、ゆっくり見学していってね」
 と、慌てて職員さんの後を追い掛けていくのでした。
 一人になったジンペーちゃんが、さして面白くもない見学の手続きをしていると、不意に背中をポンポンと叩かれました。
 見学の為の書類を書く手を止めて、ジンペーちゃんが振り返ると、グリーンさんと仲良く手を繋いだフモちゃんが、ニコニコと笑っています。
「あっ、フモちゃん! グリーンさんも、こんにちは」
 心細くなっていたジンペーちゃんは、思いがけず知っている人に会えたのが嬉しくて、
「フモちゃんも老ぬいホームに通っていたんだね。グリーンさんも、そうなの?」
 と、釣られてニコニコ笑います。
 フモちゃんがうんうんと頷くと、グリーンさんが
「フモが通っているから、私も面会に来るの。ほら、フモは大人しくてあまり喋らないでしょう。私とは目と目でお喋りできるけど、他の子達とはなかなか難しいからね」
 と、説明してくれました。ジンペーちゃんは、持ち主が面会に来てくれることを知らなかったので、それなら僕もほみちを連れて来たらよかったなぁと思いました。
 フモちゃんは、グリーンさんの腕をツンツンして気を引いてから、ジンペーちゃんの方を指差して、グリーンさんに何かを伝えているようでした。
 グリーンさんは、にっこりとフモちゃんに笑いかけてから、
「ジンペーちゃんも、老ぬいホームに通うの? もしそうなら、お友達が増えて嬉しいって、フモが言ってるよ」
 それを聞いたジンペーちゃんは、
「ううん、僕は見学に来ただけなんだ。あっ、そうそう、今、手続きしていたところなの。僕もいつか通うことになるかもしれないから、どんなところなのか、様子を見に来たの」
 そう言って、慌てて書類の続きを書き始めました。
「邪魔しちゃってごめんね。私とフモは談話室に居るから、手続きが終わったらまたゆっくりお喋りできるといいね」
 グリーンさんに手を引かれ、見えなくなるまで手を降ってくれたフモちゃんを見送ると、ジンペーちゃんはまた一人になりました。
 書類を書く音だけが、静かな廊下に響きます。書き終えた書類と引き換えに、見学許可の名札を受け取り、帰るときには返すようにと説明を受けると、ジンペーちゃんはドキドキしながら廊下を進み、突き当たりのリハビリ室の扉に手をかけるのでした。