見出し画像

読書感想『図書室からはじまる愛』

“Climbing The Stairs”
by Padma Venkatraman
『図書室からはじまる愛』
パドマ・ベンカトラマン 著
小梨 直 訳

第二次世界大戦と独立運動で揺れるインド、教養高く、理解ある医師の父、やさしい母、穏やかでひょうきんな兄に囲まれ、何不自由なく育った15歳のヴィドヤの夢は結婚ではなく、大学進学だったが、独立運動デモの最中、イギリス軍兵士からインド人女性を守った父は頭を割られ、廃人となり、家族は父方の祖父が統べる、古い因習を守って暮らす大家族の元で養われることになる。
意地悪な伯父夫婦にこき使われ、尊敬する父は「能無し」と罵倒され、美しい母はやつれていき、仲の良い兄は男女別々の階に別れて暮らすためにおしゃべりすることもできない。
それでもヴィドヤの学びたいという意志は強く、祖父や父が使っていた男性しか入れない図書室での使用を認めてもらうが、そこで彼女が出会ったのは多くの書と、ひとりの青年だった。

ざっくり言うとインドの「若草物語」「あしながおじさん」「キャンディキャンディ」「小公女」。欧米の女性たちもなかなか学ぶ権利を獲得するには苦労しましたが、インド、それも第二次世界大戦中の女性はもっとシビアな状況で、生理になったら汚い小屋に追いやられて、犬より酷い扱い、戻ってきたら「何日も働かないで寝ていたんでしょ」と言わられる鬼畜ぶりにおける主人公の苦労たるや半端無い。それでも、主人公も後で自省しているが「マシな方」で、元々が裕福で、カーストも上で、祖父や父たちが教養高いのもそのお陰、という複雑な事情が浮かび上がってくる。
穏やかだった兄は祖国を守るために志願して、あえてイギリス軍インド人兵士として出征し、主人公は廃人となった父と同じ「非暴力による闘い」を信じ、兄妹の親友でもある恋人は、「同じイギリスの植民地から独立したアメリカ」に惹かれる。そして、これだけ「意識高い系」の兄や恋人ですら、主人公は「女性」であり、「守ってやるもの」「与えてやるもの」という意識が根底にあるため、主人公は「平等に扱ってよ!」と叫ぶ場面には、同じ女性として、その屈辱、怒りに涙が出た。

作者はアメリカの大学で学位を取得したインド人女性海洋学者。家族や親戚たちのエピソードをもと、第二次世界大戦中、イギリス軍にいかに多くのインド人兵士がいたかを知らしめたい気持ちもあって書いたらしい。

ヤングアダルト小説でありながら、大人も充分学ぶものの多い作品で、原題が因習、差別、戦争、困難を乗り越えていく主人公を表す素晴らしいものなのに、なぜか白水社が血迷って、美しい装丁に、安っぽいハーレクインロマンスのような邦題をつけたのが唯一の難点であり、たぶん、これで読む気を失くす人が出ただろうな、思っていたら、Amazonのレビューには同意見多数。ほらね、これは猛反省して、タイトルを「階段」「階段の上に」「階段をのぼって」などに変えるべきですよ。

#ほんのむし #本の虫 #読書感想 #読書 #図書室からはじまる愛