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もしもに備えていないアナタに読んでほしい災害漫画『かくう生物のラブソング』

正直に言うと、災害を身近に感じていない。
これだけ水害や大中小規模の地震が頻繁に起きているというのに、他人事のように感じてしまう。そりゃニュースやSNSを通じて流れてくる被災地の惨状には心が痛む。その土地に住む友だちに物資を送ったことだってある。

実家も台風が直撃する地域なので、家族含め地元近隣みな、頻繁に水害で悩まされている。それなのになぜだろう……「やばい」とか「あぶない」といった実感が伴わないのは。

この感覚は私だけなのだろうか?

そんなこんなで万一に備えることもなく、災害によって時おり発生する首都圏の交通マヒを受け流す日々である。

この感覚にちょっとした焦りを感じていたところ、気になる漫画をみつけた。

『かくう生物のラブソング/沼田ぬしを』 (月刊ヤングマガジン the3rd 連載中)
あらすじ
2020年。突如発生した第二次関東大震災のあと、茨城県井戸市に謎の巨大隕石が落下した。隕石による死者は出なかったものの、住民の生活は全てが一変。死者はゾンビとして蘇り、住民と共に暮らしている。彼らは“帰還者”と呼ばれていた──。震災で父親を亡くした市内の女子高生・神田夜目子は、そんな非日常な現実をよそに平静を装いつつ、淡々と生きていくことを決めたのだが……。 


”帰還者”が登場した理由は「巨大隕石に付着していた謎のウイルスによって、死人の身体が急速に回復したから」と作中では描かれている。隕石によって被災した人はもれなく全員ゾンビとして生還している設定だ。彼らは起き上がり社会復帰を果たす。とはいえ身体は死んでいるので、夏には腐りそうになったりして、元の生活に比べると多少の生きづらさがあるようだ。

一方で、隕石落下の直前に震災が起きているが、こちらはわたしたちが想像できる通りの被害をだしている。つまり物語の世界では「震災で近しい人を亡くした人」と「隕石で一度は死んでしまった人と再会した人」が混在しているのだ。

主人公 夜目子は震災で父を失ったあとに、隕石落下で死んだゾンビの友だちと今まで通りの学校生活を送っている。女子高生らしくプリクラに並び、進路に悩み、宿題を面倒がりながら、ギャグ満載のやり取りが続く。あまりの呑気っぷりに読み手はついつい災害の話だと忘れてしまう。

それでも1巻を読み終わって、この世界には生きたくないと思った。

隕石が落ちた後、自分の生きる日々を冷静に分析した、夜目子の独白にこんなセリフがある。

『こうして皆、理解しようとしても脳みそのキャパシティを超えてしまっているので、とりあえず日常のパロディを送っている。(中略)まるで何もなかったかのようで、変な感じなのだが、これはこれできっととてもいい形なのだ思う。(中略)できたらこのまま静かに、時が経っていけばいいのにと思う。』

起こった現実を受け入れられずに、悲しみを隠したまま生きるのはとても辛いはずだ。そんな夜目子たち登場人物がかわいそうで仕方が無くなる。
でも同じ状況なら、わたしも夜目子のように心が麻痺してしまうだろう。

謎のウイルスの正体や、ゾンビである帰還者の生態など、明かされていない謎が多くある漫画なので、ありえない設定が実はわたしたちの現実に起こり得る……という結末を迎える可能性もあるのだが、1巻の時点ではまだわからない。だが、どちらにしても大切な人を失う悲しみに違いはない。救援物資を送るだけでは分からなかった、被災者の苦しみを漫画から感じた。

できることなら夜目子たちのような思いはしたくない。
そのためにも、「万一に対する備え」をしっかりしていくべきだと思う。まずは備蓄水を用意して、遠く離れて暮らす家族と災害が起きたときの連絡手段など、対処方法をしっかり話し合おう。

備えはしてもしすぎることはない。
冒頭では防災意識が皆無であったはずのわたしが、『かくう生物のラブソング』を読むことで災害への認識を改めさせられた。

もしも、わたしのように災害に実感を持てないでいる人がいれば、ぜひ読んでほしい漫画である。


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