はなさん@生物のしくみを解説

生物学の専門家ですが、研究者ではありません。生き物について考えたことを書きます。

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最近の記事

AIが意味を理解しない理由が分かりやすすぎて衝撃だった

ちょっと前の本なんだけど、 「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」 (新井 紀子 著、東洋経済新報社) この本は衝撃だった。 著者の新井氏は数学者であられるらしい。 この本によれば、 数学には今のところ、  論理  確率  統計 の3つの言葉しかないらしい。  知らなかった・・・ 「意味」を扱える数学というのは、まだ発明されてないんだそうだ。 言われてみれば、確かにそんな数学は聞いたことがない。 そして、AIは数学でできている。 だから、 ① 意味を扱える数

    • 今年書きたいあれこれ

      あけましておめでとうございます。 去年は「蛍光」について思いつくままに書いてたけど、書ききれないまま年が明けてしまった。がんばって完結させます。元々、蛍光の「漏れ込み」について書こうと思って書き始めたので、そこまでかければ一応完結(のはず…)。 あと、「血球計算盤」とかも書きかけだな… 今年は抗体についても、もうちょっとちゃんと書きたい。 例えば「アイソタイプコントロール」とか。 日々の実験で抗体を使ってる専門家でも、アイソタイプコントロールを理解してない人は多い。

      • 進化論を知って、なんかメリットある?

        僕は進化論が好きなんだけど・・・ 進化論について考えるのが楽しいんだけど・・・ 進化論に興味ない人に、  「進化論を知って、なんかメリットあるわけ?」 ってストレートに聞かれた、なんて答えるだろう・・・? 【メリット】 ① 楽しい  (進化論について考えるのが楽しいとか、オレだけか?) ② 視野が広がる  (これもオレだけ?) ③ 世の中の、生物学がらみのモノゴトを理解しやすくなる 例えば、僕は昔、太陽光のスペクトル分布と、目の感度分布がものすごくよく一致しているのを

        • 【超初心者向け!】蛍光分子の吸光スペクトルと蛍光スペクトルの見かた

          蛍光色素をネットで検索していると、 こういうグラフが必ず出てくる。 このふたつの山は、  左が吸光スペクトル  右が蛍光スペクトル といって、蛍光色素の特性を表すグラフだ。 でも慣れてないと、 このグラフが何を意味してるか、  ぜんっぜん分かんないと思う。 そこで今回は、主に生物学を学ぶ人向けに、このグラフの意味と使い方について、ゆっくりと説明してみたいと思う。 分かりにくさの正体このグラフの何が分かりにくいって、 左の山と、右の山で、 縦軸の「意味」が違うのだ!

        AIが意味を理解しない理由が分かりやすすぎて衝撃だった

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        • らくがき生物学
          79本
        • いえのこととか
          15本

        記事

          [超初心者向け!]蛍光色素の励起光と蛍光はなぜ色がちがうのか?

          あなたは、生物学の研究をしている。 蛍光色素を買いたいな、と思って、ネットで検索する。 すると、いろんな蛍光色素の名前と、それぞれの特性がずらりと書かれた表がたくさんヒットする。 特性は主に、  Excitation (ナノメートル):励起光の波長  Emission(ナノメートル):蛍光の波長 のふたつだ。 こういう表をながめてると、すぐ気づく。 励起光と蛍光は波長が違うのだ。 つまり、励起光と蛍光は色が違う。 例えば・・・ 青(490 nmぐらい)で励起される色

          [超初心者向け!]蛍光色素の励起光と蛍光はなぜ色がちがうのか?

          [超初心者向け!]光は波長が短いほどエネルギーが高い、の覚え方

          光は涙 いや、光は波だ というか、  光は  「波である」と考えることもできるし  「粒である」と考えることもできる。 波と考えることもできるから、 光には「波長」がある。 波長っていうのは、  波が上がって下がって、  元の高さに戻るまでに進む「距離」のこと。 ところで、 僕たちの目に見える光は「可視光」。 可視光の波長は、  だいたい 400~800 ナノメートル。 可視光は、 波長によって、色が変わる。 400ナノメートルぐらいだと、紫。 700ナノメー

          [超初心者向け!]光は波長が短いほどエネルギーが高い、の覚え方

          ロット差をチェックする(主に)ふたつの方法

          前回、ロット差について書いたけど、 この記事では、 「ふたつのロットの試薬と使って、同じサンプルで実験して、結果を比較する。」 っていう方法しか書かなかった。 でもこれだと、新しいロットの試薬が届いた時に、前のロットもまだ残ってないといけない。 このためには、ひとつのロットの試薬を完全には使い切らないように、常に気を付けておく必要がある。 でも、前のロットの試薬を残せないケースもあるだろう。 その代表例が、ELISAキットを使って、継続的に実験や検査をしているケースだ

          ロット差をチェックする(主に)ふたつの方法

          ジキルとハイドと試薬のロット差

          「ジキル博士とハイド氏」という小説がある。 有名な小説なので、あらすじをご存知の方も多いだろう。 以下はネタバレになるけど、善良なジキル博士は、「善と悪を分ける薬」を発明し、悪人ハイドに変身して悪事を働いていた。ジキル博士は、ハイドに変身する薬と、ジキル博士に戻る薬を発明したが、物語の終盤で戻る方の薬が効かなくなり、ジキル博士に戻れなくなって、破滅を迎える。 薬が効かなくなった理由は、物語の中でこう推測されている。  最初に作った時の原料にわずかな不純物が入っていて、

          ジキルとハイドと試薬のロット差

          「サピエンス全史」の下巻は科学のお話

          書評というわけじゃないけど、ちょっと感想。 「サピエンス全史」の下巻を読み始めてみたところ、下巻は主に「科学」のお話みたい。 科学の特徴について、このように書かれてる。 「近代科学は、私たちがすべてを知っているわけではないという前提に立つ。」 さらにこの文の後には、「今現在の知識も、研究が進めば間違いだと分かる可能性があることも、「科学」は受け容れている。」という主旨の文が続く。 つまり、  僕たちには、まだ知らないことがある。  僕たちが知っていることには、間違いが

          「サピエンス全史」の下巻は科学のお話

          細胞の鼻

          細胞には鼻がある、って話を書きたいんだけど。 書き始めるとまた考え込んでしまって、なかなか書けない。 鼻があって、においが濃い方を判断して、そっちへ動いていく細胞がある。 例えば僕たちの白血球が、 「あ、こっちが濃いかな?」 と判断して動き始めるところは、顕微鏡で1分以内ぐらいで観察できるとても速い反応だ。 見てると、 「あ、今この細胞、考えて、判断したんだな」 と感じられて、とても心ひかれる。 これはバクテリアのやり方とまったく違う。 バクテリアは、濃さの「時間的

          書評(ちょいたし)「サピエンス全史」(上巻) 「虚構」がもたらす破壊力

          上巻を読み返していて、やっぱり大切なポイントを外しちゃったかな、と思ったので、ちょっと書き足したい。 上巻の出だしは、  ホモ・サピエンスは  誕生した当初は、全然特別な存在じゃなかった と主張するところから始まる。 ホモ・サピエンスは、 「取るに足りない動物にすぎず」 「ゴリラやホタルやクラゲと大差なかった」 とまで言い切っている。 そして、そんな「取るに足りない」ホモ・サピエンスが、なぜ地球上を席巻するようになったかと言えば、それは 「虚構」 の力によるものだ、とい

          書評(ちょいたし)「サピエンス全史」(上巻) 「虚構」がもたらす破壊力

          書評「サピエンス全史」(上巻)客観的で冷静な文章にひそむ、優しさと怒り

          遅まきながら「サピエンス全史」を読み始めた。 (ユヴァル・ノア・ハラリ 著、柴田 裕之 訳、河出書房新社) 上下巻からなる大著で、僕はまだ上巻を読み終えたばかりだけど、ひとまずレビューしてみたい。 冒頭の「歴史年表」に、いきなり引きずり込まれる。ここを読むだけでも、著者が専門とするマクロヒストリーの風景を垣間見ることができるのだ。 この歴史年表は、もちろん弥生時代や縄文時代から始まるわけじゃない。エジプト文明やメソポタミア文明から始まるわけでもない。 なんと、ビッグバ

          書評「サピエンス全史」(上巻)客観的で冷静な文章にひそむ、優しさと怒り

          有効数字は体で覚える

          有効数字… 有効数字について習ったのは、いつだっただろう… たしか中学の数学の授業だっただろうか。 とにかく ぜんっぜん意味がわからなかった という印象だけが残っている。 いや、わかりますよ? そりゃ 6.1527… とか数字があって、これのどのケタまでが信頼できる数字なのか?って話でしょ? 6.15 の “5” 以下は信頼できないなら、 “5” で四捨五入して 6.2 にしちゃえっていう。 ていうかむしろ 6.2 にするべきっていう。 でも、じゃあどのケタまで信

          細胞密度の計算のしかたをゆっくり考える

          細胞を血球計算盤で数えた結果に「10の4乗」を掛けると、細胞密度 [cells/ml] に換算できます。なぜ「10の4乗」なのか?を、順を追ってゆっくり考えてみましょう。 この記事を読んでほしい人はこんな人細胞密度の計算方法をよく理解している人には、この記事は役に立ちません。 この記事は、血球計算盤の使い方を教わる時に、 「はい、数えてみて!いくつだった?160?じゃあ、それに10の4乗かけて、1.6×10の6乗 cells/ml ね。わかった?」 とかサクサク説明され

          細胞密度の計算のしかたをゆっくり考える

          「同じことを何度も聞くな」の落とし穴

          「同じことを何度も聞くな」 って言われたことがある人は多いだろう。 他の人がそう言われてるのを聞くことも多いんじゃないだろうか? だから、 「同じことを何度も聞いちゃいけない」 と思ってる人も多いはずだ。 でも、それは場合による。 例えば経費精算の手順とか、一度教わったらあとは教わったとおりにやればいいだけのことなら、何度も聞いたら怒られるかも知れない。 でも、  A だから B  B だから C と、順を追って理解する必要があるモノゴトは、そうはいかない。 専門

          「同じことを何度も聞くな」の落とし穴

          「1000」を「10の3乗」とか書くのってなんの意味あるわけ?と思ってるあなたへ

          グーゴルっていう数がある。 グーゴルは、グーグルの社名の由来らしい。 グーゴルは、なんと10の100乗!! つまり1の後にゼロが100個もつく、ものすごくでかい数だ。 うちの小2の息子はこのグーゴルが大好き。 子供向けにグーゴルを紹介する絵本があって、それを読んだ息子はこのめちゃくちゃでかい数をすっかり気に入ってしまったのだ。 何かがたくさんあるって話になると、すぐ 「それ、グーゴルぐらい?」 と聞いてくる。 僕は大抵、 「そんなにあるわけないだろ笑」 と答える。 生

          「1000」を「10の3乗」とか書くのってなんの意味あるわけ?と思ってるあなたへ