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読書メモ:21 Lessons

サピエンス全史、ホモ・デウス、21 Lessonsとユヴァル・ノア・ハラリの著書を読んできて、率直に著者は天才だと思う。世界に存在する複雑に絡まりあった物語をある程度理解可能な形で語りなおす天才だとおもう。一般向けの書籍として細かい事実を端折りながら、一般人が理解しやすい形で、エンターテイメントとしても成立させながら社会の重大問題を物語るその力量に驚嘆する。

21 Lessonsの大きなポイントの一つは人間は物語の中を生きているということである。自分は何らかの特別で重要な真実の中で生きているという直観を人間は抱きがちだが、実際には特別で重要な物語を周囲の人々と共有しているだけで、物語は真実である必要は全くないのだ。むしろ物語のなかで幸福かつ力強く生きているためには、真実は実は邪魔者にさえなりうる。力を持つものには真実がしばしば不要のものになる。

しかし真実と異なる物語は長い時間をかけて淘汰されていくもののようにも思えることも事実だ。重い物質の方が速く落下するというアリストテレスの物語はガリレオ・ガリレイによって否定された。ある程度の真実を含む物語が重要なのだと個人的には信じる。科学という手続きですら物語に過ぎないとしてもとても強力な物語だ。

あらゆる人が異なる物語の中に生きている。それどころか個人の内部にも矛盾する物語が内包されている。異なる物語は互いに受け入れがたいものあることが多いが、しかし異なる物語同士が干渉しないでいられることはコミュニケーションのコストが下がったこの21世紀には望めない。

この21世紀中には環境破壊、AIの発展、バイオテクノロジーの発展の帰結として、過去の物語をもってしては対応できない問題、そして人類という種そのものがどこに向かうのかが問われる問題が多数発生することが予想される。そのような問題に立ち向かうために個々の人間が信頼に足る情報を集め、誠実に議論をすることが必要だろう。そのような情報収集の手始めとして21 Lessonsを読むのは、そう悪くない選択肢だと思う。

様々に立ち上がる議論の中から新たな強力で魅力的な物語が生まれるのだろうか。グローバルな問題に立ち向かえる万人が受け入れられることのできる物語が出来上がることを願う。そのような物語が全く不可能ということはないと信じる。

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