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武器としての「資本論」

①はじめに


「マトリックス」という映画をご存知でしょうか?2019年に公開され大ヒットした映画です。
あらすじは

人類が現実だと思っている世界が実はコンピュータにより作り出された「マトリックス」と呼ばれる仮想世界であり、本当の現実世界でネオをはじめとした人間たちはコンピュータに支配され、眠らされているという驚きの真実を明かす。モーフィアスの誘いに乗り、本当の現実世界で目を覚ましたネオは、ネオこそが世界を救う救世主だと信じるモーフィアスやトリニティとともに、コンピュータが支配する世界から人類を救うため戦いに乗り出すが……。(出典 )

この映画を観た時「自分が現実だと思っていた世界が、仮想世界だった」という設定に衝撃を受けました。

今回ご紹介する「武器としての『資本論』」を読んだ時に、この「マトリックス」を観た時以上の衝撃を受けました。

なぜなら自分が住んでいた世界が「資本主義」に支配されている気がしたからです。


自分達が生きている世界がどのような世界なのか、そこで生き延びるためにはどうすればいいか、について書いてあるこの本について紹介します。

②資本主義とは?


 資本主義とは物が「商品」として生まれて流通し、消費される一連のプロセスを指します。
 その中で驚いたことが「資本主義の目的は人を豊かにすることではなく、資本を増やすことである」と定義されていることです。
 資本主義とは「商品」を通して「余剰利益」を生むためのシステムなのです。
 
 では余剰利益とはどのように生まれるのでしょうか。「商品」を作るための労働によって形成される価値が、労働力の価値(=賃金)よりも大きくなった時に余剰価値が生まれます。
 生産手段を持つ資本家は、より大きな余剰価値を手にするために「労働によって形成される価値」を上げねばなりません。
 そのために「効率化」「生産性向上」を進めようとします。「働き方改革」は決して労働者のための取組ではなく、資本家のための取組である、と書かれてています。
 
 また、資本家が労働者を得るためには生産手段を持たない労働者を大量に雇う必要があり、生産手段のベースとなる土地から人々をいかに引きはがし、「商品」としての労働者を大量に生産してきたかについて日本・イギリス・ロシアなどのケースも大変興味深かったです。
 
 資本主義システムを改めて俯瞰してみると生産手段を持たず「雇われている」自分の人生が見事に「資本を増やすことを目的としたシステムに組み込まれている図」がありありと浮かび上がって来ました。

③自分の価値観を振り返る 資本主義の内面化


 「増殖することが目的の資本主義」は今や個人の価値観にも影響を及ぼしています。
 人の価値を年収や財産で判断してしまう人は資本主義が自分の内側にまでどっぷり染みついているのです。
 また、会社で「あなたの持っているスキルは他の人のスキルと違いがないためあなたには価値がない」と言われて納得してしまう人はこの資本主義の価値観に染まっています。
 
 本来人間は「資本に奉仕する」ために生まれてきているのではありません。(もちろん人間以外の動物、植物全ての生命も然りです。)
 
 それが資本主義の発展により、資本家と労働者という階級ができ、労働者を「商品化」かつ資本家からもらう給料でしか生きていけない「消費者」に仕立て上げることで人間の価値観にも資本主義を染みこませてしまったのです。
 
 最近「生きがいがない」と感じる人や「自分探し」をする人が増えていますが、「資本を増やすことが目的」の資本主義ゲームで戦っている以上「自分の人生」を生きることは難しいからではないでしょうか。

④資本主義をどう生きるか


 とはいえ、「じゃあ今日から労働者を辞めて資本家になる」や「完全自給自足で生きていく」ということも難しいのが現実です。
 ではこのような自分も含めて現代を生きる多くの人の内面に染みつく資本主義をどう生きるか。
 
 著者が提案するのは
「こんなマズイもの食えるか」
と言えるかどうかであると訴えます。

 資本主義のスタートは労働者を得るために土地から人を引きはがし、都会に集中させました。
 その影響により土地の食文化は衰退し、その土地でいただくことのできる新鮮で、その食材に合った調理がされた料理が消失しつつあります。
 
 全国どこに行っても同じ品質・味の物が食べられる、ということはある意味安心ですが、一方で文化が消えていっている、ということでもありこれこそが資本主義の大きな影響です。

 食べるということは人間にとって生命と直結する原始的なアクションであるが故に、そこにこだわるのは重要であると感じました。
 
 そのような現状に気付いて「NO」と言えるかどうか。
 それが私たちが「マトリックス」の世界から脱却する第一歩であると感じた本でした。

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