[散乱文章]その三

白いうなじと、連なる背骨を描く滑らかな曲線が、美しいと思った。
偶然、バスの席で目の前に座った女性の、ショートボブの下につながった皮膚と骨と肉。襟ぐりの広い黒のブラウスは、まるでその額縁のようで、自然と彼女の傷一つない背中に目が吸い寄せられる。少しだけ覗いた肩甲骨の盛り上がりは、上質な和菓子のようにも感じられ、私は密かに唾を飲んだ。
スマホを操作する彼女の手もまた、指が長く、美しかった。
昼に近いころの陽の光は、彼女の肌をより白く見せる。
後ろに座った人間が、そんな変態じみたことを考えているなどと、彼女は露ほども疑わないだろう。
髪の合間から、三角の金属製のピアスが揺れるのが時折見て取れる。きちんと化粧をしているのだろう、長い睫毛も、微かに横を向きかける時に、見えていた。
でも、彼女の顔を見るつもりはなかった。

後ろ姿、というのは、幻想的だ。
顔を見なければ、自分好みの顔だと夢想できる。
だからこそ、顔を見たくない、と私は思ったのである。

[散乱文章]その三「後ろ姿」

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