見出し画像

喜六庵の「あくびの稽古」にお付き合い下さい その二十

林 洋子さんと「クランボンの会」

 1986年3月11日、当時の天竜市二俣町の「玖延寺」で林洋子さんによるシタール弾き語りによる宮沢賢治の世界「いのちの物語 雁の童子」が上演されました。当時、私の民芸の師匠であった浜松市中区有楽街「工芸ギャラリー・キッド」の加藤さんのお店に置かれていた一枚のチラシで初めて知りました。

天竜市二俣町での公演チラシ

 4月頃、この林洋子さんのプロフィールと天竜公演の内容を教えていただきました。連絡先を教えていただき手紙を送ったところ、5月に入って連絡が取れ、条件とスケジュールを伺いました。そして、6月に入ってから交渉し、9月27日(土)の公演日程をいただけました。

「クランボン便り」 vol.10

 林洋子さんは、東京都出身の俳優座養成所の第一期生で、劇団俳優座団員から、劇団三期会(現在、東京演劇アンサンブル)に移り、1960年代に主としてベルトルト・ブレヒトの作品に主演しています。同時期、東大ギリシャ悲劇研究会による日比谷野外音楽堂の上演に客演、アイスキュロス、ユウリピデスの作品に主演しています。60年代後半からフリーとなり、1971年、「東京水俣病を告発する会」を母体に、石牟礼道子原作「苦界浄土」を上演します。以後、自発的に芝居が出来なくなり、俳優として沈黙に入ります。72年にインドを旅行、カルカッタの民家に一カ月滞在、帰国後、ベンガル語を学びます。そして、78~79年、再びインドへ。カルカッタ及びベンガル地方の農村を単身で廻ります。そこで、宗教的大道芸人バウルたちに出逢い、「いのち」を自分自身の中に発見、帰国の途につきます。1980年に宮沢賢治の童話を一人語りで演ずるという新しい分野を着想、出前公演を始められました。この企画を実現するために「クランポンの会」をつくり、語り手と伴奏者の二人で楽器と簡単な照明器具を持参して全国を廻り、お寺の本堂、公民館の和室、画廊、蕎麦屋の二階、神社の社務所、ライブハウス、個人宅の居間などで上演されていました。アイリッシュ・ハープを弾きながら語った「やまなし」「よだかの星」は、この当時で、既に約5年間に420回以上、全国で公演されていました。1985年に「雁の童子」にとりかかられ、7月に初演されていました。この「雁の童子」では、シタールというインドの楽器による弾き語りということで注目されていました。この物語は、現在の中国、タクラマカン砂漠を舞台にしてお話で、仏教童話の傑作と言われています。
 会場はお寺の本堂です。本堂に幻想的なシタールの調べが流れ、いのちのめぐり、時のめぐり、そして、いのちの幸せを感じさせてくれるに違いないと、ご住職を説得したのです。
 この時の条件を控えてありました。
 ①出演料は、観客50人未満で、66,666円。
       観客50人以上100人未満で、77,777円。
 ②旅費は、東京・浜松間の往復(新幹線)二人分。
 ③会場は、舞台の無い、みんながペタンと坐って観られること。椅子席は
 不向き。
 ④現地スタッフのうち三名を照明係として、リハーサルから参加できる。
 ⑤会場内をリハーサル時から暗く出来ること。本番でも真っ暗になる事。
 ⑥照明機材と小道具、演者と黒子係二人を次の公演地まで送り届ける事。
 開催の一週間位前に連絡があり、直前の開催地が遠いので、照明機材と小道具は宅配便でお寺宛てに送るので、浜松駅の新幹線口までの迎えを伝えられました。翌日は、開催予定が入っていなかったので、又、浜松駅まで送り、機材等は三日以内に次の開催地に送るよう言われました。
 この時のPRですが、当然、ネットも携帯電話も無かった時代です。坂本長利さんの一人芝居開催時のアンケート回収分を含めて、約170通のD.M.を郵送、浜松演鑑協、浜松市内の月刊情報誌、そして新居町内の図書館ボランティア(七色くれよん)にもお声をかけました。

本果寺公演のチラシ

 当日は、私が浜松駅まで迎えに行き、スタッフには14時にお寺に集合していただきました。リハーサルからの照明係は、浜松市内の劇団員とコンサート関係の照明経験者にお願いしてありました。「会場は、舞台の無い、みんながペタンと坐って観られること。」だったので、本堂内の広間に座布団を敷くことにしました。控室、着替えは庫裏をお借りしてありました。上演時間は、70分でした。14時30分から15時30分で会場設営、18時30分までリハーサル、開場は19時、開演は19時30分とスケジューリングしていたので、予定どおりに進行し、18時30分頃には食事をしていただけました。スタッフには、空いている時間に食べていただけました。開場は19時だったのですが、18時30分頃から駐車場に車が入ってきました。会場内と受付の準備は完了していたので、早めに本堂内に上がっていただくことにしました。
 リハーサル時から会場内は、真っ暗にしてあったので、廊下側だけ灯りをつけました。19時30分に、私から今回の公演内容と林洋子さんのご紹介をさせていただき、すぐに暗転にしました。リハーサルの照明係がスポットライトを点灯させると、三角錐のような黒いテントの前に林さんが現れました。
 シタールの音の中、「流沙の南の、楊で囲まれた小さな泉で、私はいった麦粉を水にといて、昼の食事をしておりました。‥」、物語りが始まりました。あらすじは、「旅をする私が巡礼の老人から聞いた話。沙車に住む須利耶は、従弟の撃った弾丸に倒れた雁から託され、ただ一人残った雁の童子を育てます。童子は幼少から両親を驚かす言動が多く、母を働かせて自身が塾へ通うことを気兼ねする少年に育ちました。十二になった年の冬、『誰もどこへも行かないでいいのだろうか?』と、に尋ねた童子は、古い沙車大寺のあとから出土した天童子の壁画の前で、前世では親子であったことを須利耶に伝えて倒れます。」
 輪廻転生、前世の宿縁、命の再来‥、人類が誕生し、宗教、文化が成長していく過程での哲学が次々と語られていきます。文章を読むと非常に困難な内容なのですが、シタールの響きと林さんの語りが本堂内に広がっていきます。約70分、語り終えた後、会場内から湧き上がるような拍手の連続でした。
 お客様を送り出し、全員で会場の片づけ、そしてご住職の奥様手づくりの山形料理による打上げが続きました。坂本長利さんの公演時と同様、林さんと同行の黒子さんの宿泊、朝食もご住職にお願いしてありました。
 翌朝、次の公演地まで送る機材を預かり、浜松駅までお送りしました。私は、そのまま当日午後からの西武百貨店・浜松店「西武CITY8寄席」の準備に向かいました。

新居公演時の当日配布チラシ
チラシ作成時の写真

 この公演での収入は、前売り大人46枚、子供4枚、そして当日大人7枚、子供3枚、そして1枚分のカンパで、86,500円でした。入場者は、大人50人、子供7人、そしてスタッフ8人でした。出演料は66,666円、交通費32,800円で、支出額は138,172円となり、結果51,672円の赤字となりました。幸い、これまでの累積黒字が83,311円あったので、何とかなりました。

 1995年4月20日、新潮社から新潮CDブックとして「林洋子 宮沢賢治ひとりがたり」全三巻が発売されました。おそらく、この三枚のCDが公式な記録だと思います。


新潮CDブック「林洋子 宮沢賢治ひとりがたり」第1巻
新潮CDブック「林洋子 宮沢賢治ひとりがたり」第2巻
新潮CDブック「林洋子 宮沢賢治ひとりがたり」第3巻

「新居・寄席あつめの会」のプロデュース公演①~⑰

 1981年11月18日から始めた、「新居・寄席あつめの会」プロデュース公演は、この17回目までは、一人芝居、コンサート、演劇、寄席、弾き語りと、この地では初めての企画・公演を続けることが出来ました。しかしながら、金銭的な事と、準備に費やす時間・日数、スタッフへのご負担など、いろいろと考え、17回目からは「本果寺寄席」のみに絞りました。予定として、2024年11月24日に「100回記念会」を予定しております。私は、ちょうど戸籍年齢70歳となりました。
①1981年11月18日(水)20時開演 一人芝居「土佐源氏」 坂本長利
②1982年10月30日(土)19時30分開演 第1回本果寺寄席 喜六家清八・桂南らく・三遊亭新窓・春風亭愛橋・柳亭痴楽
③1982年11月27日(土)19時30分開演 一人芝居「越前竹人形」 坂本長利
④1983年4月2日(土)19時開演 フォークコンサート 高橋忠史
⑤1983年5月14日(土)19時開演 第2回本果寺寄席 喜六家清八・春風亭愛橋・柳亭楽輔
⑥1983年9月25日(日)18時30分開演 女剣劇 野口すみえ一座
⑦1983年11月18日(金)19時開演 第3回本果寺寄席 喜六家清八・春風亭愛橋・柳亭楽輔
⑧1984年1月19日(木)19時開演 ラテンギターコンサート 中林淳真 ※会場 新居町民センター・視聴覚室
⑨ 1984年5月12日(土)19時開演 第4回本果寺寄席 喜六家清八・春風亭愛橋・柳亭楽輔・やなぎ女楽
⑩1984年7月21日(土)19時30分開演 一人芝居 「野外版・土佐源氏」坂本長利
⑪1984年9月19日(水)19時30分開演 「寿歌」 劇団テクノポリス
⑫1985年5月6日(月)19時開演 第5回本果寺寄席 喜六家清八・春風亭愛橋・柳家小蝠・林家時蔵
⑬1985年7月7日(日)15時開演 エジンバラ国際芸術祭参加「一人芝居・土佐源氏」坂本長利  ※会場 西武百貨店・浜松店CITY8
⑭1985年9月15日(日)19時開演 第6回本果寺寄席 喜六家清八・春風亭愛橋⑮1986年1月11日(土)19時開演 第7回本果寺寄席 喜六家清八。春風亭愛橋・柳家小蝠
⑯1986年9月27日(土)19時30分開演 シタール弾き語り「雁の童子」林洋子
⑰1987年1月10 日(土)19時開演 第9回本果寺寄席 喜六家清八・春風亭愛橋・桂亭治




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?