カップラーメン

カップラーメンを食べたことは、人生で数えるほどしかない。高校生までは3回、と具体的に覚えていたけれど、今もたぶん10回あるかないかくらいだと思う。

小学生のときにキャンプでお湯を沸かして食べたのがたぶん初めてだったな。
中学生のときに貰い物のカップラーメンを、家で母と作って半分こしたな。

でもあまり美味しいとは思わなかった。

大学生になって中国の宿で現地の人(名前を覚えていないので張さんと呼ぶ)にカップラーメンの作り方を教えてもらった。
何しろ私、ポットの使い方も覚束ない人間だったから。

中国はカップラーメンの種類が豊富で、長距離列車やバスなんかでは手軽なカップラーメンを食べる人が多い(中国は都市間の移動もとても時間がかかる)。
お箸じゃなくてフォークで食べるんだけど、ちゃんとフォークもカップの中に入ってるし、お湯を入れた後で蓋にプスッと刺して留めるの結構便利だよ。
そして結構おいしい。

私がいたのは四川省だったから、張さんに辛いソースはどれか聞いてそれを入れずに食べた。
張さんがいなかったらカップラーメンの作り方も分からなかったし、辛いラーメンが出来上がって食べれずにひもじい思いをしただろうな。

張さんは私と年の近い青年で、大学で法学を学んでいてもうすぐ弁護士の試験を控えてると言っていた。海外に出たことはないのに英語が話せた。ありがたいことである。

私は彼とカップラーメンを一緒に食べ、その後も雑談した。日本の司法制度について聞かれたので必死で高校の政経の授業を思い出し拙い英語で説明した。完全に無茶振りだった。最終的に文字で書いた。漢字が使えると中国でとても便利である。

私も中国を旅するにあたり必要そうな言葉を中国語に訳してもらった。
「すみません」と「わかりません」、そして「これは辛いですか」
その後これらの中国語をとりあえず連呼して乗り切ることになる。
本当に張さんに助けられた。

余談だが、中国でやたらおばさんに愚痴を言われたり道を聞かれたりした。人に溢れた中国地方都市、周りの99.99%は言葉の通じる中国人だろうにあえて私に話しかけるなんておばさま達の人を見る目がないとしか言いようがない。まぁ、まさか汚い格好でプラプラふらついてる若い女性が日本人だとは思わなかったんだろう。

張さんとは洗面所でも会った。
熱湯が出るよ、と教えてくれたのでへー、と思って触ってみたら本当に熱湯だった。この熱さでどうやって歯磨きと洗顔をするんだ。
言ったでしょ、と言って張さんは部屋に戻って行った。

張さんは翌朝早くのバスで発つと言っていた。私はもう一日そこに留まる予定だったから、次の日起きたらもう張さんはいなかった。

カップラーメンを見ると張さんを思い出す。本当の名前は何だったかな。
無事司法試験に受かっただろうか。

先日珍しくカップラーメンが食べたいような気持ちになって、作ってみた。醤油ラーメンにしてみた。
やっぱりあまりおいしいとは思わなかった。
カップラーメンを食べるなら自分で簡単な料理を作るね。

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