墓地
私の家は田舎で、
特に母の実家は昔からの集落にあるので
先祖代々の地域の墓地によくお墓参りに行った。
母の実家では祖母までは土葬であったらしく、お墓も墓標と盛り土がしてあるシンプルなものだった。
地域全体がそういう風習だったので、墓地は閑散としていて、風がよく通り抜けた。
その風景の中で一際目立っていたのが戦死者のお墓である。
盛り土のお墓のなかで、立派な背の高い墓石と大きく刻まれた階級の字は、子供の目にも異様だった。
戦死なら、きっとお骨になって帰ってきたんだろう。それとも、骨すらなくてお墓の中は空っぽかもしれない。
死んでしまってこんな立派なお墓が何になるんだろう、と現代の私は思ってしまうのだけれど、
人の命の価値が今より軽かった時代に、立派なお墓を建てて弔ってもらえることはせめてもの誉れでもあったのかもしれない。
当時の人は本当にそう思っていたのかもしれない。
物は残っても感情や記憶は変わっていくものなので、今の私はあれこれ想像することしかできないけれど。
今では火葬になり、各家がお墓を綺麗にして一般的な石のお墓が並ぶ墓地になっている。
背の高い戦死者のお墓も、昔よりは目立たない。
ちょうど戦争の記憶が埋もれていくみたいに。
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