帰りみち

いつかのどこかの帰りみち。

電車を降りる。同じ駅で降りる人影はまばらで、静まり返った夜の田舎町には不釣り合いな眩しいホーム。明かりにまとわりつく蛾。昼間は遠くまで見通せるホームも今は景色は殆ど見えない。

車掌が鳴らした笛が遠くまで響く。

電車がガタンゴトンと去っていく音を背中に聞きながら改札へ向かう。
ある時間を過ぎると駅員はいなくなる。自動改札もないため、切符入れの箱に切符を入れて改札を通り抜ける。

少ない利用客がそれぞれ散って、迎えの車に乗り込んでいく。
私は左の出口へ。

街灯のある道と、街灯のない裏道がある。私はいつも裏道を選ぶ。街灯がないと言っても近くからの明かりで真っ暗ではない。
線路の脇の道を歩く。夏は草が生い茂り虫の声がうるさく、秋はススキが風に揺れる。駅の明かりが強すぎるせいで星はそれほど見えない。

30秒ほど歩くと今度は右折する。駅の明かりを受けて、目の前に出来た自分の影を踏むように歩く。誰も後ろにはいない。

暗い道、静まり返った道。昼間なら突き当りに木造2階建ての家が見える。
いつも歩きながらちょっとした考え事をする。
この短いまっすぐな道を、小学生のときは自転車で毎日通った。
仕事に行く父を家の前から角を曲がって見えなくなるまで見送った。
寝坊して駅まで全力疾走した。

ほんのしばらく歩く。左手に見える公営の無料駐車場の向こう側の、大きな家を通り過ぎると私の家に着く。

おわり。

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