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独りの町

仕事を終えた田中洋介は、今日も暗い夜道を歩いていた。この町は夜になると真っ暗になる。世の中から誰もいなくなったかのような静けさだ。時折、後ろから車のライトに照らされる。気づくと、車が洋介の隣をすごいスピードで抜き去っていく。
この道を歩いていると、どうしようもない孤独感に苛まれる。


洋介は、神奈川県で生まれ育ち、東京の大学に進学した。
その後、全国転勤のある中堅企業に就職。
社会人のスタートを切る配属先は、「地方」と言われる県であった。
右も左も分からない状態のまま、慣れない土地に踏み込んだ。
初めての社会人生活、初めての一人暮らし。
大学のサークルで出会った吉沢美保とも、遠距離恋愛となった。

とにかく毎日についていくのが精一杯の日々。
遠距離恋愛がスタートした頃は毎日していたLINE電話も、だんだんと三日に一度、一週間に一度と頻度が減ってきた。
一ヶ月に一度と決めていた旅行デートも、夏が終わる頃には会わない月が増えていた。

社会人一年目の十月、美保から「好きな人ができたの」というLINEが来た。

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