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【丹後ちりめん】300年の伝統を礎に生まれる新たな絹素材(京都府与謝郡)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2020年10月号より)

 古くから絹織物の産地として知られる、京都府北部の丹後地方。日本海に面し「海の京都」とも呼ばれるこの地では、300年にわたり丹後ちりめんが織り継がれてきた。その伝統の技が今、新たなものづくりに生かされている。

 まるで空気を織り込んだかのようにふんわりと軽い真綿(まわた)ストール。真綿とは木綿ではなく絹の綿(わた)のこと。「日本で木綿の生産が始まる以前は、綿といえば絹のことでした」。教えてくれたのは「クスカ」の楠泰彦さん。丹後で昔から使われてきた手織機をカスタマイズし、立体感と絹の質感が際立つネクタイやストールを作っている。

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絹の光沢が際立つ手織りの真綿ストール/クスカ

 同じく手織にこだわり染色まで一貫して手がける「創作工房糸あそび」では、幅広のシルクリボンを使ったリボン織が、服地やインテリア生地として海外のバイヤーからも注目されている。「経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を自在に組み合わせて多彩な表情を生み出す丹後の技法をアップデートし、今までになかった織物を創りたい」と山本徹さん。

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シルクリボンを経糸、緯糸に使うリボン織/創作工房糸あそび

 新たな創造は、受け継がれてきた伝統があるからこそ。1833年創業の「山藤(やまとう)」では、木製の八丁撚糸機(ねんしき)が現役で動いていた。1メートルあたり3000回もの撚(よ)りをかけた緯糸で織ると、精練*の段階で撚りを戻す生糸の特性が、丹後ちりめん特有の漣(さざなみ)のようなシボ(生地表面の凹凸)を生み出す。

*精練:生糸の表面にある膠〈にかわ〉質を除去すること

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経糸の密度を高め生地のコシにこだわったふくさ(山藤)

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生糸に水をかけながらコマの回転で撚りをかけていく湿式八丁撚糸機/山藤

 和装小物を製造する「一色(いっしき)テキスタイル」では、手入れの楽なポリエステルのちりめんで風呂敷やポーチを提案。日常に寄り添う丹後ちりめんの可能性を追求する。

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丹後ちりめんで彩られた、三井ガーデンホテル京都駅前の「丹後ちりめんの間」/一色テキスタイル

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ラ・フランスの形をイメージしたバッグ /一色テキスタイル

 2018年には、伝統技術に新たな技術やデザインを取り入れた丹後テキスタイルの新ブランドTANGO OPENが誕生した。丹後の織物文化は、現在進行形だ。

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甘撚りの絹糸でふわふわに織り上げられた「TANGO OPEN」ブランドのストール/創作工房糸あそび

 かつて京都へとちりめんを運んだちりめん街道のある加悦(かや)地区から車を北へ走らせると、穏やかな伊根湾が現れる。その深い青に、クスカで見た鮮やかな「丹後ブルー」のスニーカーを思い出した。

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「丹後ブルー」が印象的なスニーカー/クスカ

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地◉INFORMATION
●与謝郡のプロフィール
京都府北部の丹後半島に位置する。江戸時代中期に京都・西陣からちりめん織の技法が伝わり、地場産業となった。かつて丹後ちりめんの一大産地だった与謝野町の「ちりめん街道」は当時の繁栄を今に伝えている。半島北端の伊根町は、伊根湾に沿って多くの舟屋が並ぶ独特の景観で知られる。
●問い合わせ先
クスカ ☎0772-42-4045
創作工房糸あそび ☎0772-42-3515
山藤 ☎0772-46-2031
一色テキスタイル ☎0772-46-6088

出典:ひととき2020年10月号




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