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清らかな名水から生まれた涼菓 大垣の水まんじゅう(岐阜県大垣市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2018年8月号より)

 水音も涼やかな水槽の中でひんやりと冷やされた水まんじゅう。半透明の皮の奥に、優しい色合いのあんがほのかに透けて見える。口に運ぶと、控えめな甘さの余韻を残し、つるんと喉を滑り落ちていく。暑さがスーッとひいていくような清涼感だ。

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地下水を掛け流した水槽で冷やされる水まんじゅう(金蝶園総本家)

 良質な地下水に恵まれた大垣は、市内の至るところで湧水がみられる「水の都」。水まんじゅうは明治の初め、この地で誕生したと伝わる。まだ冷蔵庫のない時代、井戸舟*の中の冷たい地下水で冷やした水まんじゅうは、暑さをしのぐ夏のおやつとして愛されてきた。今も不動の人気を誇る大垣名物だ。

*地下水を受ける水槽

 駅前にある老舗菓子店「金蝶園総本家」では、葛粉とわらび粉を使った昔ながらの製法で水まんじゅうを作っている。小さな猪口に流し込むのも、当時から変わらないスタイル。

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水を流し掛けながら、猪口からするりと水まんじゅうを取り出す 

「一日に二千から三千個、週末には六千個以上売れることもありますよ」と八代目店主の北野英樹さん。食感を損なわないよう日に何度も作っては、売れるそばから店頭の水槽に補充している。定番のこしあん、抹茶あんのほか、月替わりのフルーツあんも人気だ。

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寛政10年(1798)創業の金蝶園総本家

 一方、こちらも老舗の「御菓子つちや」でいただいたのは、ワイン味の水まんじゅう。つやつやした赤白の皮の中にはぶどうの実が忍ばせてあり、味も香りも大人好み。九代目店主の槌谷祐哉さんが「葛粉は香りを閉じ込めてくれるので、ワインのふくよかな香りが残るんですよ」と教えてくれた。店主の探究心から生まれる創作水まんじゅうは、懐石料理のデザートとしての引き合いもあるという。

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御菓子つちやのワイン味の水まんじゅう(期間限定)

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水滴をイメージした美しい色合いの菓子「みずのいろ」(御菓子つちや) 

 市内の菓子店では菓子作り教室を開催、授業の一環として子供たちに水まんじゅう作りを教えている。毎年七月の大垣菓子博では、各店が工夫を凝らした水まんじゅうの競演が繰り広げられる。

 時間とともに透明感も食感も変化する水まんじゅうの日持ちは、二日間と短い。作りたてのみずみずしさが味わえるのは、わざわざ足を運んだ人だけの特権だ。

文=宮下由美 写真=佐々木実佳

ご当地◉INFORMATION
●大垣のプロフィール
西美濃随一の城下町として栄えてきた大垣は、国内有数の地下水の自噴帯に位置し、古くから「水都」と呼ばれてきた。市内のあちこちに湧水スポットがあり、憩いの場にもなっている。毎年8月には「水都まつり」が開かれ、水門〈すいもん〉川の万灯流しが人気を集めている。松尾芭蕉が「奥の細道」の旅を終えた地としても知られ、俳句のイベントも盛ん。夏の名物水まんじゅうは、「同時に食べさせ合ったペア数」で今年ギネス世界記録に認定された。
●大垣市へのアクセス
名古屋駅から東海道本線で約30分、大垣駅下車
●問い合わせ先
金蝶園総本家 ☎0584-75-3300 
御菓子つちや ☎0584-78-2111 
大垣観光協会 ☎0584-77-1535

出典:「ひととき」2018年8月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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