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金沢の伝統工芸を陰で支えるめぼそ針・加賀毛針(石川県金沢市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2020年3月号より)

「針仕事」という言葉を、めったに耳にしなくなった。裁縫箱がないという家庭も多いのかもしれない。もし縫い針が手元にあれば、じっくり観察してもらいたい。

「今の針は糸を通す穴が縦長の〝長耳(ながみみ)〟が一般的ですが、もともとは真円でした。その目穴(めあな)・目度(めど)を縦長にして、面積を広げて糸を通しやすくしたのが、初代・八郎兵衛の工夫だったんです」。そう語るのは、創業1575年(天正3年)の針の老舗、目細八郎兵衛商店の20代目当主・目細勇治さんだ。

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桐製の小さな裁縫箱には、めぼそ針と糸、糸切りばさみ、針山が納まっている。思わず手に取りたくなる可愛らしさだ

「その甲斐あって、加賀藩前田家のお殿様から『めぼそ針』という名前をいただき、それを名字にしたというわけです」。

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長町武家屋敷通り。武士の嗜みが加賀毛針を生んだ

 めぼそ針の特徴は、糸の通しやすさだけではない。針のしなり具合、針先の鋭さにも、代々受け継がれてきたこだわりがある。「緩やかな傾斜をつけて研磨し、最後の工程で縦に細かい傷を付けています。布との接触面が減り、摩擦抵抗が少なくなるんです」。思ったところに滑らかに入る〝刺さりが良い〟めぼそ針は、加賀繍(ぬい)や加賀手毬、加賀ゆびぬきといった伝統工芸を陰で支えてきた。

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裁縫まわりの商品も豊富。ハリネズミの針山は人気のアイテム

 明治期になると、目細八郎兵衛商店では縫い針だけでなく、鮎釣りの毛針を手掛けるように。石川県の伝統工芸品である加賀毛針だ。「江戸時代、加賀藩では武士の嗜みとして鮎釣りを奨励していました。その後、一般庶民も川釣りが楽しめるようになると、毛針の需要が一気に伸びたんです」。

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店に置いてある毛針は650種類。一つひとつ色目が異なる

 1890年(明治23年)、17代目が内国勧業博覧会に加賀毛針を出展し、褒状(ほうじょう)をもらうと、その名は全国に知れ渡った。8ミリほどの針に羽毛やラメ、金糸を決められた順番で巻き付けていく、その繊細な美しさはまさに手仕事の工芸品だ。20年ほど前からは、「釣りをしない人にも、加賀毛針の魅力を知ってもらいたい」と、毛針作りの技術を生かしてフェザーアクセサリーも展開。加賀の伝統は新たな形で人々を魅了している。

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商品はすべてハンドメイド。細かい神経と集中力が求められる

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帽子や襟元を飾るアイテムとしてフェザーアクセサリーは男性にも人気

文=秋月 康 写真=阪口 克

ご当地◉INFORMATION
●金沢市のプロフィール

本州のほぼ中央に位置し、加賀藩前田家の城下町として栄えた金沢市。日本海側気候で雨の多い地域だが、湿度の高さは地域の伝統工芸である漆塗りや金箔の製造に適している。藩政時代からの趣ある建物が残っているのも特徴で、木虫籠〈きむすこ〉と呼ばれる出格子の家屋が軒を連ねるひがし茶屋街は、国の重要伝統的建造物群保存地区。往時の面影を残した、金沢らしい風情を満喫できる。
●問い合わせ先
金沢市観光協会 ☎076-232-5555
https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/
金沢市観光政策課 ☎076-220-2194
目細八郎兵衛商店 ☎076-231-6371
http://www.meboso.co.jp/

出典:ひととき2020年3月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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