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【鎚起銅器】使い込むほどに風合いが増す 唯一無二の日用品(新潟県燕市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2020年12月号より)

 トントントントン、カーンカーン、トーントーントトン……。

 玉川堂(ぎょくせんどう)の作業場では、金属を叩く甲高い音がさまざまなリズムで響き渡っていた。鎚起(ついき)銅器は、ひたすら銅を叩いて造りあげるのだ。「音を逃がすため、ここは天井が高くなっています。叩く音は、作業によっても違います」と玉川堂燕(つばめ)本店店長、白鳥(しろとり)みのりさん。

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築100年の玉川堂の作業場。天井が高く手元がよく見えるよう窓が大きい。職人の3分の1は女性

 職人は皆、欅(けやき)の切り株の台(上がり盤)に座って作業中。台に開けた数カ所の穴に「鳥口」と呼ぶ鉄の道具を差し込んで、銅板を被せて叩いている。

「燕で代表的な鍛金法が口打出(くちうちだし)です。注ぎ口まで1枚の銅板から作ります」と白鳥さん。

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銅は叩くと硬くなるので炉で焼きなましては叩くのをくり返す

 老練の職人が、その最中だった。ふくらみを生じさせた銅を黙々と打ち続けて、やかんの口らしき凸部を作っている。注ぎ口の部分も含めて、外側から金鎚で〝打ち絞る〟ことで成形。膨大な時間をかけて、1枚の銅板が3次元の立体に生まれ変わる。

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コーヒー愛好者の職人が考案して生まれたコーヒーポット「いぶし銀」とドリッパー。大鎚目(おおつちめ)のぐい呑みにはキャンディーを入れて

 壁面にずらっと並ぶ鳥口は鎚起の要。工程で使い分け、ひとつの器に20種類以上を使うことも。

「出来上がりの形は職人の頭の中にあるため、作る職人によって少しずつ形が異なります。だから同じ急須でも誰が作ったのか分かります」。唯一無二の器なのだ。

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刃鎚目(はつちめ)のティーポット。尖った金鎚で鎚目を詰める繊細な表現。大鎚目(上写真)は複数回叩きながら面を拡大する複雑な技 

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日常で花を飾る銅器をと、女性職人が開発したフラワーボール

 1816年(文化13年)創業の玉川堂からは多くの職人が巣立った。当地の鎚起銅器の牽引車である。

 富貴堂(ふうきどう)3代目の藤井健さんも、玉川堂で修業した一人。「使う人に寄り添うもの作り」をモットーに、日常使いの道具を製作してきた。家族経営なので、できるだけ一人でこなせるように仕事の手順を模索。鎚目(つちめ)も着色もシンプルなものに徹して、コストを下げると共に機能美も追求している。

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上がり盤に差した鳥口に被せた銅器を叩く藤井さん。盤は父親譲りだ

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へら絞り(丸い金属板を回転させ、へら棒で型に押し付けて成形する技法)で作った生地を叩いて成形する富貴堂の道具。銅の表面に鎚目の美しさが生まれ、地金が締まって丈夫になる。右からカップ、ミルク入れ、砂糖入れとスプーン、片手鍋。赤い銅に錫を焼き付けて仕上げる

 鎚起銅器は、使い込んだ風合いが魅力だ。その上、空炊き、へこみも修理可能。玉川堂では、大正時代の製品を修理したこともある。

 まさにサステイナブル。時代のニーズに応える道具といえる。

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存在感漂う鎚起銅器。40年間使ったやかん(右)にはさらに力強さと艶が

片柳草生=文 阪口 克=写真

ご当地◉INFORMATION
●燕市のプロフィール
穀倉地帯・越後平野の中心に位置するが、度重なる信濃川の氾濫で農民は困窮、江戸時代に副業の和釘生産が増大した。元禄期には間瀬銅山から良質の銅が採れるようになり、渡り職人伝来の鎚起銅器技法によって銅器生産が盛んに。やすり、煙管〈きせる〉などのほかに金属洋食器の生産にも着手。昭和40年代以降は、国内における金属加工産業の主要産地で、キッチンツールから農機具まで生産。ノーベル賞授賞式の晩餐会でも燕産カトラリーが使用された。
●問い合わせ先
玉川堂 燕本店
☎0256-62-2015
https://www.gyokusendo.com/
富貴堂
☎0256-63-8395
http://www.fuukidou.co.jp/

出典:ひととき2020年12 月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。



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