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【有松鳴海絞り】400年の伝統を持つ手仕事から生まれるモダンデザイン(愛知県名古屋市緑区)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2023年4月号より)

 繊細な凹凸のあるシェードから広がる柔らかな光。モダンで印象的なこの照明は、江戸時代から続く絞り染めの伝統技法と、熱で形状を定着させるヒートセットという現代の技術が出会って生まれた。「シェード生地の豊かな表情と陰影は、熟練した有松鳴海ありまつなるみしぼりの技でしか表現できないものです」と、デュッセルドルフと有松を拠点に絞りの魅力を発信するsuzusanクリエイティブディレクターの村瀬弘行さん。

絞りの形状を残すペンダントランプとフロアランプ(ブランケット、ファブリックパネル共にsuzusan)
一粒一粒手作業の絞りの陰影が美しい照明(suzusan)

 慶長13年(1608)、木綿を絞り染めにした手拭いを東海道の土産物として売り出したのが有松鳴海絞りの始まり。「縫う」「くくる」「たたむ」というシンプルな手技で布を絞り柄を染めるその技法は、100種以上あるともいわれる。「地域の財産である技法は守り、素材と用途を変えることで、現代の生活や使い手に寄り添う新しい有松鳴海絞りを提案しています」と言う村瀬さん。カシミヤやコットンリネン、アルパカなど上質な素材にこだわり、美しい色調に染めたファッション、ホームアイテムには、丁寧なものづくりへの情熱が込められている。

糸を括る力加減が重要な絞り技(suzusan)
カシミヤニットならではの染色の滲みも味わいに(suzusan)
伝統柄をグラフィカルに配したクッション(suzusan)

suzusan POPUP STORE
3月22日(水)〜4月4日(火)日本橋髙島屋本館2階、
4月19日(水)〜5月2日(火)ジェイアール名古屋タカシマヤ9階

 もうひとつの産地ブランド、山上商店cucuriのショップには、ポケットや袖に絞りのヒートセット生地をあしらったシャツやブラウス、軽やかに揺れるイヤリングなど、すぐにでも身につけたくなるアイテムが並ぶ。

絞り生地を部分的にあしらったメンズシャツ(cucuri)
ハードなデニム生地との組み合わせも新鮮(cucuri)
ポンポン状の絞りイヤリング(cucuri)

 2015年に、デザイナーの今井歩さんとcucuriを立ち上げた山上正晃さんは「絞りから生まれる独特の立体感やしわの造形的な面白さをデザインに生かしています。有松鳴海絞りならではの魅力をもっと身近に、カジュアルに楽しんでほしい」と語る。定期的に開く絞りのワークショップも好評で、手応えを感じているという山上さん。「cucuriを通して産地の取り組みや絞りの可能性をもっともっと伝えていきたいですね」

山上商店3代目の山上正晃さん

 伝統の価値を未来へとつなぐ有松鳴海絞りのこれからが楽しみだ。

春らしいカラーのトップスやスカートは袖や裾の絞りがおしゃれなアクセントに(cucuri)

ご当地INFORMATION
●名古屋市緑区のプロフィール
愛知郡鳴海町、知多郡有松町・大高町が名古屋市と合併してできた区。市南東部に位置し、大高緑地をはじめ公園の多い緑豊かな区として知られる。江戸時代の風情を残す旧東海道沿いの有松町並み保存地区には、絞り染めの店や工房が多く並ぶ

問い合わせ先
suzusan
☎052-693-9624
cucuri・山上商店
☎052-623-2186

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

出典:ひととき2023年4月号

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