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今日も、あの頃と変わらぬ一歩を(恐竜研究者・小林快次)|わたしの20代|ひととき創刊20周年特別企画

旅の月刊誌「ひととき」の創刊20周年を記念した本企画わたしの20代。各界の第一線で活躍されている方に今日に至る人生の礎をかたち作った「20代」のことを伺いました。(ひととき2021年10月号より)

 20代は、アメリカで過ごしました。勧められるままに留学が決まり、現地の英語学校に通った1年は、つらかった。気持ちが変わったきっかけは、「いまを生きる」*という映画です。その中に親に認められない苦しさの中、命がけで自分のやりたいことを貫く生徒が出てきた。僕はそういう人生に憧れました。その一瞬を大事に、今を生きる。アメリカの大学で全力で学ぼうと決心しました。

*1989年のアメリカ映画。ロビン・ウィリアムズ主演、ピーター・ウィアー監督。第62回アカデミー賞脚本賞受賞。厳格な全寮制のエリート男子校を舞台に、生徒が生きる意味を見つけていく青春群像劇。

 転機は、1996年から98年のモンゴルと中国の国境付近の発掘で、オルニトミモサウルスというダチョウ型恐竜の化石を発見したことです。そのことを書いた論文がきっかけで恐竜研究のバイブルと言われる「ダイノサウリア」という本に寄稿しました。目標の一歩を実現できたとうれしかったですね。いい仲間との出会いもありました。大学院で親しくなった韓国と中国の友人と僕は3兄弟のようになって、3人でアジアの恐竜研究を発展させたい、アジアを牛耳っちゃおうと励まし合いました。

 中学時代から化石を採り、高校生のときに地元の福井で最初に恐竜化石が発見された場にも立ち会いました。研究者になってからも僕は「ファルコンズ・アイ」と言われ、化石を発見することが多い。視野を広げて、人が嫌がるところに行くからだと思います。それは自分が発見者になりたいからではなく、チームが最高の結果を得るために何ができるかを考えた上での行動です。モンゴルの砂漠ではぐれたら危険ですし、アラスカではグリズリーに遭遇するので散弾銃は必携。厳しい自然の中で互いの安全を確保し、自分の命を預けられるようなチームでないと、発掘はできません。

 僕の学生時代、日本に恐竜研究者はいなかったので、自分がなれる可能性はゼロでした。でも、何かになりたいからやるんじゃなくて、何かをやっているときっと何かになる。高いエベレストを見ると、登れるわけがないとあきらめたくなりますが、足元を見て一歩ずつ歩いていると、いつかどこかに到達できる。その積み重ねで今の僕がある。親父は「反省はしても後悔するな」と言ってくれました。今を大事に、最善を尽くして生きる。20代から、自分の気持ちは変わっていないですね。

談話構成=ペリー荻野

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恐竜研究者を夢見ていたワイオミング大学時代

小林快次(こばやし・よしつぐ)
恐竜研究者、北海道大学総合博物館教授、同館副館長。1971年、福井県生まれ。米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。北環太平洋地域にわたる発掘調査を続けながら、恐竜の分類や生理・生態について研究する。専門は獣脚類恐竜のオルニトミモサウルス類。

出典:ひととき2021年10月号


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