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1億年の浪漫に満ちた「海の神の使い」 日和佐のウミガメ(徳島県海部郡美波町)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2022年8月号より)

 ウミガメの産卵地として知られる徳島県なみちょう日和佐ひわさ地区の大浜海岸。ここは日本のウミガメ保全の発祥地でもある。始まりは1950(昭和25)年、呼びかけは地元の男子中学生だった。

ウミガメの故郷・大浜海岸。砂浜の広さや砂粒の質が産卵に最適。岩礁地帯の沖合はエサが豊富で、彼らにとっては交尾や憩いの場所

「肉を削がれたウミガメの亡骸を、彼が海岸で見つけたんです。食糧難の時代でしたから、食用に捕獲されたのでしょう。そこで『こんな悲惨なことが二度と起きないように』と仲間を集めてウミガメの観察記録を始めたそうです」と田中ひろさん。日本で唯一のウミガメ専門の博物館「日和佐うみがめ博物館カレッタ」の学芸員だ。

撮影=ひととき編集部

「本人たちは純粋にウミガメを思う気持ちから研究していただけなので、1988(昭和63)年の『日和佐海亀国際会議』で、その成果が先駆的だと学者に高く評価されて驚いたそうです」

日和佐中学校ウミガメ研究班の発足メンバー。近藤康男先生(後段・左)によれば、地元では、ウミガメは海の神の使いと伝えられてきたという
1950年、日和佐中学校の生徒が孵化させたアカウミガメの「浜太郎」。飼育記録が残るウミガメの世界最高齢で「ウミガメの町」の顔。カレッタでは人工孵化・産卵や、漁業に巻き込まれて衰弱した個体の保護などさまざまな活動に取り組んでいる​​

 近年、大浜海岸で産卵するウミガメは減少している*1 が、そもそもウミガメは全種、IUCN*2 のレッドリストに掲載されている。個体数の減少は地球規模で深刻なのだ。美波町では1995(平成7)年に「ウミガメ保護条例」を制定し、産卵シーズン中*3 は海岸への夜間の立ち入りを規制したり、街灯を消したり、静かで暗い海岸の環境づくりに尽力し、産卵を妨げないように努めてきた。

*1 令和以降の上陸回数は年間10回未満 *2 国際自然保護連合 
*3 5月中旬~8月中旬

「日和佐うみがめ博物館カレッタ」ではアカウミガメ(写真)をはじめ100頭ほどのカメを間近に見られる

 だが、田中さん曰く「ウミガメの保全は日本だけで、ましてや一市町村で解決できる問題ではありません」。そう聞くと悲観的な未来を思い描いてしまうが……。

「でも、産卵できるホームを守ることは非常に大切です。帰れる海岸さえあれば絶滅しないのではないか。ウミガメにはそう思わせてくれる奥深さがあります」

子ガメの世話をする学芸員の田中さん。「カレッタは来年から3年ほどかけて、開館しながら全面改装します。展示も施設も充実する予定です!」

 1億年以上も生き抜いてきたウミガメは、その過程で身につけた習性や本能が優れていて、環境の変化に適応する力が非常に高いという。ウミガメにとって美波町が最良のホームであり続けてほしい。ウミガメと町の物語を次世代に伝えながら、いつまでも。

昨年生まれたアオウミガメは、およそ大人の手のひらサイズ

撮影=ひととき編集部

文=神田綾子 写真=佐々木実佳

ご当地INFORMATION
美波町のプロフィール
徳島県の南部に位置する。大浜海岸は日本の渚百選に選定されている景勝地で「大浜海岸のウミガメおよび産卵地」として国の天然記念物にも指定されている。変化に富むリアス海岸の風景も見事で、2キロにわたり続く高さ200メートルの断崖絶壁の海岸・せん海崖かいがい、徳島県最大で直径30メートルの海蝕洞・えびす洞などの絶景が迎えてくれる。
問い合わせ先
日和佐うみがめ博物館カレッタ
☎0884-77-1110
https://caretta.town.minami.lg.jp/

出典:ひととき2022年8月号

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