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お土産にも喜ばれる、300年の歴史を受け継ぐ美しい「和ろうそく」(愛知県岡崎市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭りなど、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2018年3月号より)

「三州岡崎和蝋燭(ろうそく)」として愛知県の地域産業資源にも認定されている岡崎の和ろうそく。見慣れたろうそくとは違う、つや消しの肌と太い灯芯(とうしん)に目をひかれる。火を灯すと夕陽を思わせる橙(だいだい)色の炎が立ち上がり、まるで呼吸をしているかのように揺らめく。

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国産原料のみで作られる岡崎の和ろうそく。あたたかみのある炎が空間をやさしく照らす

 明治以前、ろうそくといえば漆や櫨(はぜ)の実の蝋から手作りされる和ろうそくのことだった。ところが、パラフィン製の安価な洋ろうそくが輸入され国内でも大量生産されるようになると、和ろうそくはその地位を奪われてしまう。

 現在、和ろうそくを作る店は全国で二十軒ほど。そのうち三軒が岡崎市に残っている。古くから東海道の要地として栄えた岡崎では、生活に関わるさまざまなものづくりが発展した。徳川家康の保護で増えた寺院や武家の需要で、ろうそく作りも盛んになったという。

 江戸時代から三百年以上の歴史を受け継ぐ「磯部ろうそく店」で、店主の磯部亮次(りょうじ)さんが仕上げ工程の「芯出し」作業を見せてくれた。和ろうそくは、細く巻いた和紙に藺草(いぐさ)の髄(ずい)を巻きつけて芯にし、串に刺して溶かした櫨の蝋を何度も塗り掛け成形していく。風がなくても炎が揺らめくのは、串を抜いた後の空洞を空気が通る構造のためとされる。

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 朱色の蝋に覆われたろうそくの先端を磯部さんが熟練の手さばきで削ると、何層にも重なった断面が現れた。年輪のような美しさは、手間と時間をかけた仕事の証だ。

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 店頭には、白や朱、銀のろうそくのほか、季節の花々を描いた可愛らしい絵ろうそくも並ぶ。飾って楽しむもよし、気のきいた岡崎みやげとしても喜ばれそうだ。

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「普段の生活の中で気軽に楽しんで」という磯部さんの言葉に、五匁もんめ*、長さ十五センチほどのろうそくを買い求めた。このサイズで九十分ほど燃え続けるという。柔らかなともしびに包まれる時間を、さてどう過ごそうか。

*1匁は3.75グラム

宮下由美=文 阿部吉泰=写真

ご当地◉Information
徳川家康生誕の地として知られ、岡崎城をはじめゆかりの場所も多い。古くからものづくりが盛んで、ろうそくのほかにも石細工、花火、こいのぼりなどの手仕事が受け継がれている。

●岡崎へのアクセス
愛知県のほぼ中央に位置する。名古屋駅から東海道本線で約30分、または車で約30分

●問い合わせ先
磯部ろうそく店 ☎0564-24-0245
https://www.isobe-r.jp/

出典:ひととき2018年3月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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