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翡翠の龍(日常の中の不思議ファイル 25)

友人Hと旅行に行った時、
Hは翡翠の龍を買いました。

深い緑色をした、掌に乗るくらいの大きさの龍です。


ある時、他の友人たちと初日の出を見ようということになり
車で海に向かっていました。

一旦近くに住む友人のところへ寄るのでまだ夕方
それでも、冬の日はすぐ暗くなるので
6時くらいだというのに真っ暗。


4車線の広いバイパスを走っていた時です。
初めての道なのでそれほどスピードは出さずに走っていました。

右側の中央分離帯に人影がありました。
全身黒い服装をした男性がこちらを見ています。
そしてそのうしろに白い服の人が…

辺りは畑が広がっていて真っ暗。街灯もないところです。

車のヘッドライトが近づいていくと
突然、黒づくめの男性の陰から女性が飛び出してきました。

まるで背中をドンと押されたみたいに、
背中を反って片腕を前に突き出していました。

白い帽子。白い服。全身が白い服装の女性が
車が近づいた直前に飛び出してきたのです。

ドンッ!という重い衝撃とともに
フロントガラスが一瞬、白い女性で覆われ、
すぐに吹っ飛んでいきました。

Hはあわてて急ブレーキを踏みました。
そして車がまだ止まり切らないうちに、
男性が運転席のところに駈けてきて窓に手をかけ、

「何をするんだ!!!」

と怒鳴りました。

Hは「それより奥さんを…。」

と言って急いで車を降り、はねた人の方に近寄ると
白い服の女性はうなっているのですが、まるで歌うような声を出していました。

それを見て、黒い服の男性は急に黙って突っ立っているので、
すぐに110番しました。

地元ではないのでその場所が分からず、
その男性に電話を代わってもらい、場所の説明をしてもらいました。

救急車が来るのに一番時間がかかる場所らしく
そして外灯や横断歩道も無い場所なので、今か今かと待っていました。

その間、男性はずっと黙りこくっていました。
私は車の中から自分のコートを持ってきて女性に掛けました。

女性のうなり声は歌のように抑揚をつけてずっと聞こえていました。

ようやく救急車が到着し、病院に運び込まれたのですが
意識は戻りません。

事故のことを聞いて親類らしき人たちが集まってきて
いたたまれない感じでした。

私たちはいったん友達の家に行き、そこで待機していました。
そして朝が来て、白い服の女の人が亡くなったという知らせが来ました。

警察での調書やいろいろあって、ようやく戻ってきた時、
Hの家に入ってすぐのところに飾ってあった翡翠の龍が
すっかり色褪せて、真っ二つに割れていました。

翡翠はお守りになると聞いたことがありますが、
それでももっと酷いことになりそうな出来事からHを守ったのでしょうか、
警察は夫の方を疑っているようでしたが、私たちには何も言えません

夫やその息子たちは、
母親が亡くなったことで大金が欲しかったようで、保険金以上を要求し
裁判になったりしましたが、Hは免停になっただけですみました。

私にはあの事故の時、黒い服の男性が
両手をポケットに突っ込んでいたのが見えました。
だから突き飛ばしてはいなかったろうと思うのですが、
ではあの女性が背中を反らして飛び出てきたのはなんだったのだろうと
腑に落ちない気持ちがずっとありました。

一年以上経ってからそれをヒロさんに話したとき、

「それはすねを蹴り上げたんだよ。
 そうされると、背中を反らして、手が泳いだようになるんだ。

 神戸でそれにそっくりな事件があったよ。
 一年以内だったらなんとかなったのになぁ。」


Hは職を変えて引越し、今はどうしているか分かりません。

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