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【ココロコラム】うまく「休む」

今回取り上げるのは「休む」ことです。頑張るのが大変なのであって、休むなんて簡単と思う人が多いでしょう。しかし、実際にはうまく休めていない人が想像以上に多いのです。

海外旅行などによくあるのが、きっちり休みの予定を決めて、予定通りに行動することです。これは、あまり望ましい休み方ではありません。休みなのに機械的行動をたどっているだけで、魂の休息になりません。にもかかわらず、限られた時間で少しでも多くの場所を回ろうとしたり、他人が行ったところに自分も行くというような考えになりがちです。

これは、やっていることが違うだけで、仕事や学業をしているのと考え方はあまり変わりません。当然、たいして休養になりません。休む際は、必ず予定を入れないフリーな時間をとりましょう。何もしなくていいし、する必要がない時間を確保し、できれば何も考えない。これが、精神のエネルギーを回復させてくれるのです。

何も考えないという意味では、集中力を必要とするものを避けるのも、休養に大切なことです。スポーツ、車の運転、テレビゲームなど、ぼーっとしていられない娯楽が増えています。現代人は信号の待ち時間でもさっと携帯をとりだして、何かの情報をチェックし、集中力を使っています。昔より、意識を集中する機会が増えているのです。そのぶん、休むときはなるべく考えないで済むような時間を持ちたいものです。

集中力を要するものは、やっていて楽しいですが、同時に精神は少なからず疲れます。意識を集中する必要のないことを、休息の時間にとりいれているかどうか。これはうまく休めているかの一つの指標になります。

休養の取り方がワンパターンになっていないかどうかも、確かめておきたいものです。休日はいつもゴロゴロして終わってしまうとか、会社の帰りにすることがだいたい決まっているなどという方は要注意。いつも同じことばかりしていると、うまく休めません。休みの過ごし方に変化をつける。これも、精神をうまく休める上でとても大切なことです。

日常生活でも、うまく休みを取り入れたいものです。何か嫌なことがあったとしても、とりあえず一区切りを入れて、棚に上げる時間をとる。強制的に頭にリセットをかけるのが大切です。

その際には、必要に応じて手を抜くとか、人に任せることが必要になってきます。仕事が有能な人ほど、この二つができない傾向にあります。何もかも自分で引き受けて、疲れ切るまで走ってしまうのです。いつでも全力疾走するのではなく、手を抜けるところでは手を抜く、人にやってもらえるものはやってもらう。これを意識するようにしましょう。ココロが疲れやすい人は、とかくオーバーワークになりがちです。ある程度他人任せ、成り行き任せにしてみる。それでも、たいていの場合なんとかなっているはずです。

うつ病の治療の柱は、休養をとることです。ところが、精神科でそれを話しても「休めない」「休んだ気がしない」と訴えてくる人ばかりです。そういう人には「休むのも仕事のうちだと思ってください」と話すことがよくあります。それぐらい、休むのに抵抗のある方が多いのです。上手に休養をとり、明日への活力を養うことは、車で言えばエンジンを休め、オイルを交換したり燃料を補給することにあたります。とても大事なことなのです。

(精神科医・西村鋭介)

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