【ココロコラム】手抜きを覚える

手抜きというと、マイナスなイメージを持たれるかもしれません。「自分は一生懸命やっても仕事が覚えられないのに、手抜きなんかとんでもない!」と思われる方もいるでしょう。

しかし、実際には要領のいい人ほど、大切なところに力を重点的に配分し、それ以外の部分はうまく手を抜いているものです。みなさんの周りにも、仕事や勉強がすごくできる人がいるでしょう。そういう人が常に全力投球しているかといえば、まず違います。できる人は、結果を出すためにやるべき事だけに的を絞って、集中しているだけです。集中している部分が狭いので、そのぶん力を配分しやすいのです。他の部分は手を抜いていることも意外によくあるものです。

つまり、手抜きを覚えることは、同時に物事の本質的な部分を見抜く力をつけるということでもあるのです。それさえやっていればなんとかなるという、物事の最低ラインをおさえることは、仕事などをうまく運ぶためにも、自分の負担を減らす意味でも、何の分野であれ、非常に大切なことです。

何か課題を与えられたら、真正面から見つめてみるのも大事ですが、それと同時に、どこか手を抜けるところがないか探す。あるいは余分な部分を削るのも同じぐらい大事です。手を抜けるところが見つかれば、仕事に必要な労力が一気に減るからです。

真面目な人は、仕事も人間関係も何から何まで完全にこなそうとする性質がありますし、与えられたものは人一倍努力しようとします。しかし、それでは疲れてしまう。メリハリをつけて、重要なものをまず片付け、残りは少し手抜きでもいいし、他人に任せてもいいというような楽な姿勢が、ココロの開放感を生むと思います。実際、精神医学的には、手抜きができない人ほど、責任感が強すぎ、うつ病などになりやすいとされています。

手抜きのいいところは、手抜きやついでにやるものは、けっこう実行しやすいことです。夕食の支度にしても、今日はあれとこれを作ろうと大々的に考えてしまうと、負荷が大きく、やる気が失せます。結果的に「今日は外食でいいや」ということになりやすい。最初から「冷蔵庫にあるもので適当に済ませよう」など、軽い気持ちで取り組んでいた方が、かえってまめに自炊しているものです。仕事でも同じことです。何かのついでにちょっとだけやっていたものが、積もり積もってまとまった量になっていることは、思っているより多くあります。

物事は何でも実行してみないことには、話が始まりません。手抜きでも、ついででも、数多くこなしたほうがよいことは明らかです。にもかかわらず、現実には完璧にこなそうとするあまり、やる気が失せてしまう人がとても多いものです。しかも、かなり物事が進んでから、完全にやれないと悩む人が多いのです。

その結果、仕事を途中で放棄する人もいます。非常にもったいないことです。完全を目指すあまり、やる気がなくなるのでは本末転倒です。何でも気軽に始められる体質にしたいものです。そのためには、多少集中力が落ちていたり、不完全だったり、何かのついでだったり、手を抜いてもかまわない。すべてを完全にこなすのは無理だという割り切りが必要になります。そう考えた方が、実行力を上げます。

手抜きを考える精神は、物事の重要な部分を見抜く訓練にもなりますし、ハードルを下げ、行動しやすくなる結果も生みます。手抜きはマイナスなことではなく、物事を全体的にうまく進める上で不可欠のものなのです。

(精神科医・西村鋭介)


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