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【ココロコラム】不安の正体とは何か

今回は、不安についてのお話です。なぜ、不安は必要以上に私たちの心を苦しめるのでしょうか? それは、不安の正体がいま一つわかっていない、漠然としたものであるからです。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざがあります。幽霊は怖いですが、ただの枯れた花だとわかってしまえば、別段怖いものでもない。何の不安でも同じことが言えます。しっかり考えてみれば、そこまで恐れるものでもないものに、なぜか不安を感じてしまうことはよくあります。それは、不安の正体が見えていない、いわば霧の中を進んでいるようなものだからです。

霧のことを英語でfogといいます。フォワードという心理学者が、このfogの頭文字を取って、その正体を分析しています。もともとのフォワード氏の分析は、【心理的恐喝】といって、異性を巧みにまるめこんで無茶な要求を通す人の特徴を言ったものですが、広く不安一般にも拡大できる概念だと思います。では、不安の霧を一つ一つ見ていきましょう。

FはFear(恐怖)です。【心理的恐喝】の場合は、相手に対して別れや暴力を持ち出し、恐怖を与えることです。一般の不安でも、パニック障害の不安発作の「このまま死んでしまうかもしれない」とか、「もう一度この不安が起こったらどうしよう」という【予期不安】がこれにあたるでしょう。別に病的な不安でなくても、「こんなこと言って、相手に怒られたらどうしよう」とか「会社を辞めたら、とたんに路頭に迷うだろう」というような漠然とした恐怖感を感じることは皆さんも経験したことがあると思います。これがますます不安を大きくします。しかし、このFの恐怖は、必要以上に未来を悲観的に見ていることが多く、ほとんどの場合が取り越し苦労です。ここをしっかり覚えておきましょう。

Oはobligation(義務)です。【心理的恐喝】の場合は「彼女なんだからそれぐらいやって当然だ」というような感覚を相手に与えることです。一般の不安の場合は、劣等感に関するものがこれに当てはまっていることが多いでしょう。「20代なんだから、彼氏彼女がいて当たり前だ」とか、「あの人は年収が○○万円なのに、自分は・・」というようなものが該当します。義務に思っているから、できないと不安を感じるわけです。ところが、このOの義務感の中で、どうしてもやらなければいけないものは、あまりありません。劣等感の強い人は、何か一つでも世間一般より劣った点があると、すぐにそのことができない義務感や責任感を感じて不安に陥ります。これは間違いです。世間がみんなこうだから、と思っているものは、たいてい自分の思い込みです。必要以上に自分を義務感で縛らないようにしましょう。

最後のGはGuilt(罪悪感)です。「こうしてあげないと、相手は大変だろうな・・」「自分のせいで周りに負担をかけている」というような罪悪感が、不安をよけいに大きくします。気の弱い人や「嫌われたくない人」に多い感覚です。これも、必要以上に感じすぎてしまうことが非常に多いです。できないものははっきりできない。ダメなものはダメと割り切ることが大切です。ある程度割り切らないと、「自分ばかりが損をしている・・」という感覚に悩まされがちです。

不安を感じることは誰にでもあります。困難は分割して考えるのが、問題解決への近道です。イヤな気分になったときは、この三要素を頭に思い浮かべてみるといいでしょう。必要以上に自分で自分を苦しめている要素が見つかるはずです。それがわかってしまえば、不安から立ち直るのも早くなるはずです。

(精神科医・西村鋭介)

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