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「有機野菜は慣行栽培の野菜よりもナントカ」という主張について思うこと

「有機栽培の野菜は慣行栽培(一般的に栽培されている野菜)の野菜よりも栄養価が高く安全」というような言説があり、それを信じている人たちがいる。

自分自身、有機野菜の販売をしていた頃は「きっとそう」と信じていた。が、実際には「変わりありませんから」という論文ばかり見るし、英国で「変わりないからそういった優位性を申し述べないように」みたいな注意喚起がなされたりしたこともあり、現在では自分自身も「とくに変わりないわよね」というところで落ち着いている。

実際に何が違うのか? と言われると悩ましい。わたしが考える有機野菜の優位性は

1.栽培方法において化学物質をあまり使わないことによる環境負荷の低減
2.有機栽培の農家のなかにはほんとうにおいしいものを作る人がいる
3.なんとなく自然に寄り添っているという情緒的な思い込み
4.収量を気にしない家庭菜園に向いている

あたりで、栄養価とか安全性とかについては「とくにないんじゃないか」と思っているし、そういうことを言う人に対しては「もうその主張やめたほうがいいんじゃないの」と思うようになった。

しかし「そういうこと」を言う人は絶えない。有機野菜は「慣行栽培の野菜よりも1.2倍位高いのになにが違うのか」とか「1.2倍高い野菜を買うわたしになにかいいことがあるの?」という消費者の疑問を満たす必要がある「説明商品」だからだ。

有機野菜があたりまえになればそういった説明は必要なくなる。しかしまだそういうレベルには達していないようだ。有機野菜にはつねに「慣行栽培との違い」を語る必要がある。もっともわかりやすい違いが「使う農薬・肥料・資材に制限がある」ことだから、手っ取り早く「安全性」を主張する人が多い。

しかしそもそも「安全」とはなにか。日本の食品は食品衛生法上の基準を満たしていれば安全なのだから、売られているものはすべて安全である。では「有機は安全」とはどういう意味なのか。農薬を使っていないから安全なのか。狭い日本の平地では隣の畑やあちこちから農薬は飛散するため「残留農薬0」にすることはむずかしい。ヒトに危険を及ぼす土壌菌は、有機だろうが慣行だろうか野菜には同等にくっついている。

では栄養価はどうか。AIに「有機野菜の優位性を語っている論文を探して」とお願いして出てきたものを読むと、抗酸化物質やビタミンCに少々の優位性が見られたとあるが「少々」であり「絶対的」な差異ではない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9857782/
Quality and Nutritional Parameters of Food in Agri-Food Production Systems

安全も栄養価も「なんとなく良さそう」な優位性だ。昨今ではこのようなふんわりした「キブン」を語ればあちこちからツッコミが入る。1990年から2010年くらいまでならこれで許されたかもしれないが、すでに「有機の野菜は」という栽培上の分類で優位性を語るのは時代遅れになっている。語るのなら「栽培上の分類」ではなく「自分=個」を語るべきなのだ。

自らがどのような土を作りどう作物を栽培しているのか、どんな思いで栽培しているのか、自らの物語を語る方が建設的ではないか。発信力というスキルが必要だが、「有機が慣行が」という単純なものさしに当てはめて自らを単純化してしまうほうが、残念なことだとわたしは思う。

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